〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<41>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「……以上だ。まずは幹部である諸君らに、現状を認知していただきたく話をさせていただいた。……今後、どういった対策をとるかの最終判断は、社長に一任せざるを得ない」

 ルーファウス神羅は、動揺の感じられない口調でそう告げた。

 社長の判断…… まぁ、当然といえば当然だ。

 十番魔晄炉を停止させる権限も、設計図の所有権も最終的には、神羅カンパニーの社長である、プレジデント・神羅に帰属する。

 ルーファウス副社長は、テロリスト側に、現在社長が不在であり、帰社の予定が明朝になる故、約束の期日を一日延期して欲しいと申し出るとのことだ。

 ……正直、一刻も早く救出してやりたい私としては、歯噛みしたい気持ちではあったが、一部門長である私に、それを強く主張する権利はなかった。

 会議室を出たとき、私はいったいいつ会議が終了したのかさえ、よくわかっていないほど放心していた。

 ただ、ルーファウス神羅が、この情報を外部には一切漏らさないことと厳重に注意していたのは記憶している。外部というのはこの部屋に招集されなかった大多数の社員に対してだろう。

 

「……ヴィンセント、大丈夫ですか? お顔の色が……」

 よろけそうになった私の肩を、ツォンがグイと引きよせた。

「え……あ、ああ、すまない……」

「……気分が優れないのなら、メディカルセンターに寄りましょうか?」

 心配そうに訊ねてくる彼に、私は力なく首を振った。

「いや……大丈夫だ。ただ……ショックで。とらわれの身にある子供たちのことを考えると……胸が……」

「お気持ちはわかります。……ですが、テロリストも、取引材料である彼らを、無体には扱わないでしょう」

「あ、ああ、そう……そうだな」

 ツォンに支えられるようにして、私は自分の執務室に戻った。

 だが、彼はタークス本部へ引き取ることなく、私の側に居てくれた。

「ヴィンセント、お茶を淹れますから」

「……ああ、すまない」

 情けないが、私は部屋に着くとまるで頽れるように、椅子に座り込んだ。

 ……指先が冷たい。

 口を閉じているつもりなのに、微かに唇が震えている。

 ツォンの入れてくれたハーブティーに、そっと口を付けるがまともに味わうことなどできはしなかった。

 

 

 

 

 

 

「……ルーファウス様はああいっておられましたが……」

 ツォンが静かに話し始めた。

「正直……私は社長がどのような判断を下すか……想像がつきます」

「ツ、ツォン……?」

「兵器開発部門では、スター・レイジの試作に、いったいいくら投入していると思われますか? ……それに神羅本社に必要とするエネルギーは、すべて十番魔晄炉で贖われています。あの魔晄炉は神羅カンパニーのためのみに存在しているといっても過言ではありません」

「……兵器開発の具体的な経費は計りかねるが、おそらく私の想像以上のものであろうとは思う。十番魔晄炉については、もちろん私の知るところでもあるが……」

「プレジデント・神羅は、テロリストの要求を呑むことはしないでしょう」

 ツォンは固い口調でそう言いきった。

「え……?」

「つい最近入社式を終えた修習生5名の命と、莫大な金を掛けた化学兵器の設計図…… 彼にとってどちらが死守すべき対象になると考えられますか?」

「ツ、ツォン…… ま、待ってくれ…… い、いくらなんでも、神羅の社員とはいっても、君の言うとおり、つい先日入社してきたばかりの修習生……未成年なのだぞ?その彼らを最初から見捨てるというのか? そんな人道に悖ること……」

 私は必死に反論の言葉を探していたが、心のどこかでツォンの言っていることが正鵠を射ているのだろうと感じていた。

 ルーファウスはともかく、プレジデント神羅は、宝条を使って平気で人体実験を行った人物だ。セフィロスの悲劇も……そして、ネロやヴァイスら、DGソルジャーらの悲運も、すべてあの男が招いたことなのだ。

 そう考えれば、おのれの利益のために子供の命5つ分など、たやすい代償だと感じるのかも知れない。

 だが…… だが……!