〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<61>
<18禁注意!>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

「ああ、泣かないでくれ。そんなに苦しかった……? 少し意地が悪かったかな」

 私の後れ毛を撫でつけつつ、子供を甘やかすように、やさしく宥める。

「や……ッ」

 私は慰めるように触れる彼の腕を振り払おうとした。

 ……そんなふうにされては、余計に居たたまれなくなるではないか。

「ヴィンセント……? 怒った……?」

「ち、ちがう……そ、そうじゃ…… 私ばかり……一方的に…… イヤだと……言ったのに……」

 息を継ごうとしたら、ヒックと大きくしゃくりあげてしまった。

「あんな……恥ずかしい……」

 ようやく私の苦情の意味合いを理解してくれたのか、彼はホッと安堵した面持ちになった。それこそ、さらに強く抗議したくなるような表情に。

「……恥ずかしいって…… だって君の身体を愛しているんだから。気持ちよくなってくれたほうが嬉しいんだよ」

「でも……私ばか……り…… いやだ、みっともない……」

 グズグズと文句を申し述べる私に、苦笑するジェネシス。

「やれやれ、こうして直接触れ合ってさえいるのに…… 君の恥ずかしがりは並大抵のレベルではないようだね」

「…………」

「……ごめんよ、そんな上目使いでにらまないでくれ。俺も今、けっこうツライから。君のそんな表情を眺めているだけで、もう限界が来そうだ」

 相当明け透けな物言いで、彼は自嘲気味につぶやいた。もちろん、クラウドの直接表現っぷりには敵わないが、科白を選ぶジェネシスにしてはかなり率直だったと思う。

 

 

 

 

 

 

「……なるべく苦痛を与えたくないんだ。でも、夢中になってしまうと、タガが外れそうで怖い」

 ふたたび、私の身体を寝台に押し倒し、耳元で彼がささやいた。

「……別に……大丈夫だと……思う」

 なんとか私はそう応えた。まさか、夢の中のジェネシス相手に、経験があるから問題ないと告げるわけにもいくまい。それにこういったことは、相手次第でいかようにも変化する物だと思うから。

「……理性を保たなければ、君を壊してしまいそうなんだよ」

 ジェネシスの足が、頑なにこわばった私の両膝を割る。

 私が怯えた目つきをしたのだろうか、彼は瞼の上に軽く口づけてくれた。

 

 ジェネシスの広い背に腕を回す。

 やはり堪えるときに、しがみつくものがないと不安なのだ。おぼろげになりそうな感覚を叱咤しつつ、爪を立てぬよう注意を払う。

 

「ん…… んぅ……」

 最奧を慣らすように蠢く指の感触が、私の唇から呻きとも喘ぎとも付かぬ苦鳴を引きずり出す。

 強い刺激が欲しくて待ちきれぬような切なさと、自分でも見ることのできぬ部位に異物が侵入している違和感とが綯い交ぜになり、いよいよ思考が定まらなくなる。

「あ……ッ ん…… ジェネシス……早く……」

 慎重で長すぎる愛撫に焦れた私は、浅ましくも先をねだった。

 嫌よ嫌よも好きのうち……という物言いがあるが、私は相当の好き者ではないのかと不安になってくる。

 年若い青年でもなければ、健康な肉体を有しているわけでもない。

 そんな私が、こうして触れられることを強く求めるのは、あまりに恥ずかしげなく罪深いような気がするのだ。

 

 足を抱え上げられ、彼がさらに強く私を抱きしめた。

 熱のかたまりが、もう十分過ぎるほどに蕩けたその部分に押し当てられる。

 

 一瞬、息を飲む気配が伝わったのだろう。彼は私の耳元でささやいた。

「……力抜いてくれ…… 抗わないで……」

 その言葉に頷き返す。頭ではわかっているのだが……どうしても痛みに対する生理的な恐怖が、身を固く強ばらせる。

「ん……ッ く……ッ」

 彼にすがる私の指先に、自然に力が込められる。それがジェネシスに伝わるのだろう。 息を詰め、荒い吐息をくり返す私の胸を、何度かやさしくさすってくれた。

「ヴィンセント…… 怖がらないでくれ。傷をつけたくないんだ……」

「ん…… はぁっ……はっ……」

 私が頷き返す様を確認すると、唇にそっと接吻してくれた。せわしない吐息を宥めるように。

 彼は信じがたいほどの忍耐力と自制心で、途中で何度も侵入をとどめた。

「ん…… あ……ッ あぁ……」

 徐々に痛みが甘い陶酔に変わってゆく。まるで麻薬を注入されたように。押し広げられ、こすられるそこの部分から、熱い痛痒のようなものが下肢に広がり、もはや自分の肉体の一部ではないような感覚に陥るのだ。

 だが、今まさに、私を快感に打ち振るわせているのは、間違いなくつながっている下肢からの刺激であって…… 

 自身が体験していることなのに、交わることによる陶酔感を、上手く表現する言葉が見つからない。

「あぁッ……んあぁッ! ジェネシス……!」

 広い背にしがみつき、鼻にかかった甘い声で彼の名を呼ばう。

 意識的にそうしているのではないのだが、絶頂に押し上げられる過程では、まともな思考など出来ようはずもない。

 与えられる刺激に、あられもなく身を震わせ、せわしない吐息と熱のこもった呻きが、私の唇から幾度もこぼれた。

 ジェネシスは、きつく眉を寄せ、未だ堪えている。

 その姿は、例えようもなく艶めかしい。そう……こんな私を『女神』などと呼ぶジェネシスだが、彼自身、奇跡的なほどに美しい造作を持っているのだ。

 

「めがみ…… もぅ……俺も……」

 少しでも長く私を悦ばせようと、我慢を強いているのだろう。体力のない私は、これ以上責められては失神してしまうかもしれない。

 そうしたら、彼のことだ、ひどく驚き困惑するだろう。

 白濁してゆく意識のなか、微かに脳裏をそんな心配事がよぎった。

 

 だが、落下の瞬間は、ほどんどその直後にやってきた。

 目の前が真っ白になって墜ちてゆく、この感覚…… 自分の唇から、あられもない悲鳴が迸るのをどこか他人事のように感じていた。

 彼の限界まで堪えたものが、私の体内に吐き出される。それを受け止める感覚もリアルに覚えている。

 そしてほぼ同時に、自身もすべて解き放ったこと……きっとそれによって、密着している彼と、自分の腹を汚してしまったことさえも……想像できた。

 

 甘い陶酔は、疲労した肉体に甘く余韻を残す。まるで叙情詩の終わりの部分のように……

 ジェネシスの指が、私の髪を撫で、瞳に入りそうな汗を拭ってくれた。

 

 彼の名を呼ぼうとしたところで、私の意識は完全に途切れた。

 だが、それは、まるで真綿にくるまれ、ついうたた寝をしてしまったような……そんな心地の良さを伴っていたのだった……