〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 魔晄炉への入り口はいくつかある。正面玄関というとおかしいが、一般の見学者などが来所したときに、自由に出入りできるのがこの場所だ。そして裏手側に、少し狭いが出入り口があり、さらに内部に入るには、専用のキーが必要である。

 もちろん、そんな重要なものを忘れるはずがない。

 当然取引は、魔晄炉内部……一般の人間が立ち入りできない場所で、行われるはずであるから。

 我々は内部に侵入すると、四散した。

 一刻も早く、とらわれの身の修習生を見つけるためであるのと同時に、敵に気づかれぬようにだ。

 

 久々に手にした拳銃の感覚なのだが…… なんとなくなつかしいような、それでいてその鋼の重みに、人の命を握っていることへの恐れを感じた。

 幸い、コスタ・デル・ソルで、私が武器をとる機会など、ほとんど皆無であったから。

 

 魔晄炉内は、便宜上いくつかにフロアわけが為されているが、中央に球形の動力庫があり、そこを中心に放射線状に通路が繋がっている。

 もちろん、動力庫以外の機械機器も設置されているし、階段で区画が区切られ、遮蔽物もかなりある。そう見通しがよい場所ではないが、やはり注意を怠ることはできない。

 

 兵器開発部門でセフィロスが締め上げた中年の男性は、テロリストの主導犯ではなく、単なる協力関係にある者だった。

 神羅内部の者であれば、修習生の道程などについて調べられるし、都合良く利用されたのだろう。

 ……私がそう言うと、セフィロスがひどく不満げに『お人好し』と罵ってくれたわけだが、涙と鼻水……そして鼻血まみれになり、折れた歯の間から恨み言を漏らしていた彼を、それ以上断罪する気持ちにはなれなかったのだ。

 

 彼は取引の場所は知っていても、いわゆる『詳細』についてはまるきり聞かされていなかったのだ。

 

『今夜0:00。十番魔晄炉で、取引を行う。』

 

 この文面を最後通達として、テロリストと神羅本社とのやり取りは途絶えたらしい。

 そして、我らが神羅カンパニーは、修習生五名の命を見捨て、巨大兵器の設計図を死守することにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 音を立てずに通路を移動する。

 遮蔽物に身を隠しつつ、中央の動力庫へ向けて慎重に歩みを進めるのだ。

 約束の時間まで、あと十分少々。

 おそらく、すでにテロリストは内部で待ち構えているはずだ。神羅本社との交渉が決裂したと判断するのは、予定時刻をある程度過ぎてからだろう。

 足音は立てていないのに、心臓の音が、耳元で太鼓を叩いているかのように響いてくる。冷や汗が背を伝わり、吐息までもが空気を振動させていないかと不安になってくるほどだ。

 我々四人はいつでも連絡が取れるよう通信機を持ってはいるが、当然音が出るように設定はしていない。

 こうして四散してしまえば、互いの位置を言葉で伝える術はなくなる。

 

 ああ、クラウド…… どこにいるのだ。

 兵器開発部門で尋問した、にわか加担者も修習生は取引場所に連れてきているはずといっていた。あの状況で彼がウソを吐くとは思えない。

 いや、彼らが兵器設計図を間違いなく手に入れたいのなら、『引き替え条件』を見せつけるのが常套手段だろう。

 拘束された未成年五人は、十分過ぎるほどの『引き替え条件』であるはずだ。

 

 コツ……

 背後で小さな音がした。

 私はそのまま横飛びに退いて、銃を構えた。こちら側から敵の位置は認識できない。

 

「……ヴィンセントさん! ヴィンセントさん、俺ッス!」

「き、君は……!」

 巨木のような鉄の柱の向こうで、手招きしている人物……

「ザックス……? き、君、どうして……!?」

「……シッ! こっちです」

 彼は目配せをして私を誘導した。

「ザックス……! どういう……」

「すいません、お叱りは後で受けます……! クラウドたちのつかまっている場所がわかりました!」

「……本当か!?」

 思わず大声を上げそうになり、私は慌てて自重した。

「……すいません、俺、兵器開発部門でのやり取り……後を付けて聞いていたんです。だからその後、すぐこの場所に来て内部を探っていました」

「……そ、そうだったのか……」

「連中は結構前からこの中に居たんですよ。……運良く見つけ出すことができました。もっともマスクしてやがるんで、主犯なんかはわかんないんスけど」

「そ、そうか…… だが子供たちの無事が確認されたのは本当によかった。さっそく拘束されている場所とやらへいこう。……手柄だったな。ザックス……!」

「でも、命令違反ですから覚悟はしてます。……急ぎましょう、ヴィンセントさん。こっち……地下です……!」

 ザックスが走る。私もそれに遅れないよう続いた。

 事態が著しく好転したわけではない。……これからが救出の本番だ。

「ヴィンセントさん、急いでください。エレベーターを使うわけにはいきませんので、階段で!」

「ああ、もちろんだ。しかし、地下区域とは……脱出の方法に注意せねばな……!」

 私はそう言いながら、通信機のボタンを押した。

 これで、私の位置が、後の三人に伝わる。

 

 ……クラウド、もう少しの辛抱だ……!

 チョコボの雛のような少年に、私は心の中で呼びかけた。