〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<91>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「おい、ヴィンセント。やるしかねーだろ」

 私を後ろ手に庇うようにしてセフィロスが言った。

 私は敵に引いてくれと頼んだが、セフィロスは最初からやり合うつもりでこの場所に赴いたのだろう。

 禍根を後に残さず……というのは、今も昔もセフィロスのポリシーであるようだった。

「……セフィロスのいうとおりだ。君に暴言を吐いたことを、あの下司に後悔させてやらなくてはね」

 ジェネシスもまた、ずいと私の前に陣取るのであった。

「セフィロス…… ジェネシス……」

 いくらこうして背後に庇ってくれても多勢に無勢、私も銃を使わねばならない。

 これまでのテロリスト相手では極力相手を傷つけずに切り抜けてきたが、今度ばかりはそうはいかないだろう。

 相手はDGソルジャー。常人相手ではないのだ。

「おい、ヴィンセント。あの連中のディープ……なんとかが、どんなに強くても、オレ様に敵うはずは無ェ。それより、アンタは無理すんなよ、トロイんだからよ」

「……セフィロス、言い方を考えろよ。……ああ、でも、女神は自分の身を守ることを第一にね。セフィロスの言い方は良くないが、無理をしないで欲しいという部分には同意だ。君になにかあったら、もう生きていけなくなる」

 セフィロス、ジェネシスの順にクギを刺され、こんな状況なのに、思わず苦笑してしまう。こんなふうに年若い彼らに身を案じてもらうのは、なんだかひどく贅沢な感じだ。

 

 

 

 

 

 

「そこの貴方…… ああ、ヴィンセント、でしたね。貴方はずいぶん、周囲の人間に慕われているのですねェ」

 からかいを含んだ声音で、ネロが言った。

 そういえば、さきほどからツヴィエートの中で、話をしているのはこのネロ一人だ。

 アスールという巨人は、見るからに無骨で粗野な印象…… ロッソはひどく饒舌なサディストだと、ヤズーが言っていた。

 私自身も彼女と闘ったことがあるが、ずいぶんと激しい物言いをする女性だと感じた。

 だが、まだ覚醒して間もないのか、ネロ以外のふたりは、無言のまま、我々との距離を図っている様子であった。

「神羅のソルジャークラス1st……セフィロスにジェネシス。この難儀なおふたりが、こうも貴方を守ろうと躍起になるとは…… きっと貴方の心は清らかで美しく慈愛に満ちているのでしょうね」

 ネロの言葉を無視するつもりではなかったが、返事のしように困惑し、私は沈黙を守った。

「…………」

「さきほど、我々のことすら、『物扱いするな』と怒ってくださったくらいですから……」

 その皮肉な物言いから、ネロが必ずしもハイデッカーに忠誠を尽くしているわけではないと知れる。

 彼らを生み出したホランダーという科学者については、また別の感情があるのだろうが……

「……君らと闘う理由がないのだ。私は君たちを憎んではいないし、今までに何かされたわけでもない。初対面なのだから」

 無駄だとは思ったが、私はそう言い返した。

「別の形で逢いたかったですね、心優しい貴方とは」

 あながち冗談とも思えない口調でネロがつぶやいた。微かな笑みが少しだけ悲しそうに見えて……いや、これはきっと私の勝手な解釈なのだろう。

「佞言をろうして女神を惑わずのは許さない。……かかってくるがいい。おまえたちと俺の力の差を見せてやろう」

 ジェネシスが低くささやいた。

 彼にしては本当に低く小さな声音だったのに……凄みのあるその物言いに、場の空気が張り詰め、冷たく凍りつくようであった。

 

 やはりジェネシスの精神状態は普通ではない。

 さきほど、ホランダーが口にした実験体だのという話が、心に暗く覆いかかっている。 いくら平静を装うとも、動揺が伝わってくるのだ。