ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
<13>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 ルーファウスから、折り返しの電話が入ったのは、そんなやり取りをしている最中であった。恐ろしいことに、連絡が入ったのは家の電話ではなく、俺の携帯電話だった。

 いったいどこから情報を入手しているのだろう。

『……私だ、クラウド・ストライフ』

「ルーファウス?」

『そうだ。迷惑をかけたようだな』

「……現在進行形で掛けられてるよ。どーいうことだよ、ちゃんと説明しやがれ、この野郎!」

『………………』

(ね、兄さんオープンにするよ?)

 ルーファウスが黙った隙に、ヤズーがこそっと耳打ちした。もちろん、すぐさま頷く。この場に居る人間たちには聞いておいてもらった方が都合がよい。

 あらかじめ用意していたテープを回し、コードで携帯電話とレコーダーを繋ぐ。ヤズーがスイッチを入れたと同時に、ふたたびルーファウスが口を開いた。これでこの場にいる連中すべてに、俺たちのやり取りが聞き取れる。

 

「ちょっ……聞いてんの? ルーファウス。きっちり説明してもらおうか」

『……おまえの力を見込んでこそ、だ。元ソルジャー・クラウド』

(『元ソルジャー』だって!)

(アホチョコボの自称だ)

(ヤ、ヤズー……セフィロス……やめたまえ……)      

「うっさいなッ!」

『は……?』

「あ、な、なんでもないよ。悪いけど、嫌みっぽい言い方やめてくんない? こんなこと頼むんなら、自称・元ソルジャーの俺なんかじゃなくて、タークスだの何だのにお願いしといたほうがいいんじゃないの?」

『……そうむくれるな』

「むくれてないよ! 子ども扱いすんのよせよな!」

(……ガキそのものだ)

(やめなよ、セフィロス。本当のコトって本人を傷つけるんだよ?)

(ヤ、ヤズー……セフィロス……もう……)

『……タークスでは足がつく。基本的に彼らは神羅に所属している社員なのだ。出身地から社内の交友関係まですべて洗われていると考えるべきだろう。追跡を逃れたレノが、おまえに頼んだのは素晴らしい機転だったと思う。……ほとぼりが冷めるまで協力して欲しい』

「あ、ちょっ……ちょっと待ってよ。肝心なことを聞いてないよ。この子、アンタの血縁ってテレビで言ってたけど……」

『事実だ。先日、事故死した叔父夫婦の忘れ形見だ』

「へぇ……叔父さんなんて居たんだ」

『親父の腹違いのな。わずかなりとも血のつながりがあるのかと思えるほど好人物だった』

 淡々とした口調でルーファウスは言った。

 だが、むしろその抑揚のない物言いが、内心の嘆きを悟られまいとするルーファウスの虚勢だと感じた。

 ……あくまでも俺の直感だが。

 さらにいうのならば、その叔父夫婦の死は、人為的なものであったと考えるべきだろう。でなければ、ルーファウスの異常なまでの警戒に合点がいかない。

『その子に他に身よりはない。保護して私の弟として育てようと思っている』

「……フーン、アンタでもそんなこと考えるんだ」

『……悪いか?』

「べっつにー。でもさ、テレビではこの子は犯行グループに連れ去られて、アイシクルエリアで行方不明って言ってたよ」

『マスコミにはそう発表しておいた方がむしろ安全だからだ。敵の御大を仕留めるまではな』

「……見当ついてるの? 相手の……」

『もちろん。以前、親父の代に神羅グループにいた一部の重役連中だ。……主に兵器開発、軍需関係のな』

「……そいつらが……あの子攫ってどうすんだよ……」

『決まっている。新たに擁して、神羅を乗っ取りたいんだろう。私と血筋の繋がった少年は、次の社長としては好都合だからな。世間への説明ならば、後からいくらでも取り繕える。……ウチのやり口はおまえもよく知っているだろう?』

 ……頭がクラクラしてくる。

 ようはお家騒動だと考えればいいのか。

「えーあー、つまり、その兵器・軍需関係の元お偉方が、アンタを引きずり降ろして、あの子を社長にして、もう一度、会社に返り咲きたいと……そういう……」

『端的に言えばそういうことだ。私はあの連中の思い通りにはならんからな』

 あっさりとルーファウスは認めた。内容を耳にしたセフィロスがさもバカバカしそうに、

「くだらん……」

 とつぶやいた。

 

「そこまでわかっていて……」

『……連中の扱っている兵隊どもが厄介だ。ディープグラウンドソルジャーの生き残り数名を自由にしている』

 ガタンッ!

 と派手な音が背後でした。ヴィンセントが真っ青な顔をして、テーブルに手を着いている。すぐさま支えに飛んでいきたいが、電話中だ。

 ヤズーがそっと席を外し、そっとヴィンセントの肩を抱いた。

「……な、なにそれ……」

『言っただろう。親父の代からの兵器・軍需関係の実力者ばかりだ。実際、私などよりも遙かに当時の内情に詳しい。DGだのなんだというのは、話しに聞いたことすらなかったのだからな、私は』                    

「ちょ、ちょっと待ってよ。おかしいよ。……ほら、アンタも知ってんでしょ。ツヴィエートとか……あー、オメガだっけ? ヤツらは、俺らとWROが倒したんだよ、この期に及んで、DGって……」

『そうだな。奴らが操っているのは、エリート集団ではない。むしろできそこないのDGの生き残りだ。例の一件に置いても、とどめを刺されず、廃屋の地下に身を潜めていた連中数十名を保護したようだ』

 鬱々としたルーファウスの声音に、俺は相づちを打つことすら忘れていた。