『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<1>
 
 セフィロス
 

  

 一昨日から続く昨日。

 昨日から続く、今日……

 そして明日も、今日とたいして変わらないのどかな日であるだろう。

 

 そんなことを思わせる、日曜日の静かな昼下がりのことであった。

 束の間の静寂は、無遠慮なノックの音で破られる。

 

 呼び鈴がけたたましく二三度鳴ると、次は力任せに玄関を叩く音が響いた。

 

 ドンドンドンドン

 

 まるで債務者への取り立てのような勢いだ。

 

「ちっ……ったくなんだ、けたたましい」

 今にもドアが打ち壊れそうな音に、オレは遠慮無く舌打ちした。

「い、今、様子を見てくるから……」

 そう言って手をふきながら、キッチンからヴィンセントが出てくる。だが、オレは彼を止めた。

「どう考えても怪しい来客に、のこのこ顔を出すな。いい、オレが行ってくる」

「ちょっと、あなたひとりじゃいきなりケンカになりそうじゃない。俺も行くよ」

 そう言ってついてきたのはイロケムシだった。

 基本的にこの男はハプニングを楽しむ性質なのだ。

 

 ドンドンドンドン!

 

「ドンドン叩くな。今開ける!」

 逆に怒鳴りつけてやると、一瞬だが音が静まった。

「はいはいっとね」

 イロケムシが施錠を解き、扉を表に開くと……そこには見慣れた……だが、意外な人物が立っていた。少なくともこの世界の人間ではない。

 

「レオン……? レオンじゃない。それに『セフィロス』!いったいどうしたっていうの?」

 ヤズーが素っ頓狂な声を上げたのも、無理はなかった。

 このふたりが居たことに驚いただけではなく、真っ青な顔をしたレオンが、厳重に毛布に来るんだ『セフィロス』を横抱きにしていたからだ。

 

「た、大変なんだ…… い、医者を……医者を呼んでくれ……!」

 絞り出すような声でレオンが叫んだ。彼のふところに抱きかかえられている『セフィロス』は、どこか迷惑そうな……だが、神妙な顔をして沈黙していた。

 

 

 

 

 

 

「医者ァ? その野郎がまたどうかしたのか? 怪我か? 病気には見えんがな」

 一言もしゃべろうとしない『セフィロス』のほうを顎でしゃくって、さもくだらなそうにそう言ってやった。

「どうせ、過保護なおまえのひとりよがりだろ」

「い、一大事なんだ……! く、口で説明するのが難しいんだが…… 医者に診せなければ……」

 尚も言い募るレオンに、オレはフンとそっぽを向いた。

「何があったかは知らんがな。医者くらいホロウバスティオンにもごまんといるだろう。わざわざこっちの世界にまで面倒事を持ち込むな、ヒマ人め。じゃあな」

 そう言って扉を閉めようとするのを、レオンがはっしと引き留めた。

「じ、事情があるんだ……! 以前、『セフィロス』を診てくれたという医者がいるそうだな? できればその人物に頼みたいんだ。とても……その……デリケートな問題で……」

「まぁまぁ、セフィロス。一応話くらいは聞いてあげるべきじゃない。本当に何かあったなら対処するべきだし、レオンの取り乱しようは普通じゃないよ」

 そういうヤズーに、

「この男は殊『セフィロス』のこととなると尋常じゃなくなるだろ。ったく趣味が悪いというか何というべきか」

 口汚く罵るオレに対し、レオンは反論もしない。一応迷惑を掛けているという自覚はあるのだろう。また当の『セフィロス』は相変わらず話の当事者とも思えない態度だ。

 

「どうした。どなたか来客か」

 玄関での押し問答が耳に入ったのだろう。

 居間の奥からエプロンを外したヴィンセントがやってきた。

「ああ、ヴィンセント。いやね、ちょっとしたトラブルがあったみたいでさ。レオンとあっちの世界の『セフィロス』が……」

 ヤズーがそこまで言いかけたが、ヴィンセントの耳には入っていなかった。

 蒼白の表情をしたレオンが、いかにも病人を抱えているといった風情で玄関に立っていたのだから。

「レオン……? それに『セフィロス』!? どうしたのだ。一体何が…… いや、それどころではないな。早く上がりなさい。『セフィロス』は具合が悪いのか? とりあえず居間のソファに落ち着かせてあげたほうが……」

 案の定、かいがいしくふたりの面倒を見ようとする。

 オレはいちじるしく不満であったが、ヴィンセントが出張ってきたなら、こうなるのは予測済だ。

「ほらぁ、あなたもしかめ面していないで、そこ退いて頂戴。レオンたちが立ち往生しているでしょ」

 やはりヤズーもふたりが気になっていたのだろう。ヴィンセントに促されるままに、ふたりを部屋へ誘導した。