『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 セフィロス
 

  

 

「……ふあぁ……眠くなった」

 ソファに腰掛けていた『セフィロス』が、あくびをして瞳を擦った。

 緊張感のないことこの上ない。

「おい、テメェ、同じ顔して間抜けたことを言うな!だいたい今は貴様の問題で話をしているんだろう!」

 ぽかっ

 と頭を殴ると、レオンとクラウドが飛んできた。

「バカセフィ! 今は女の子の身体だって言っただろ!」

「いきなり殴るなんて、アンタという人はどこまで乱暴なんだ!」

 どうやらレオンだけでなく、クラウドも女にはやさしい人種らしい。

 オレは野蛮人のレッテルを貼られ、『セフィロス』から遠いスツールへと追い立てられた。

 

「……この身体だと力が出ぬな。刀が重く感じる」

 両手を開いてみせて、『セフィロス』がそうつぶやく。

「……当然だ。普通の状態じゃないんだからな。今は無理に動こうとしないでくれ。目を離した隙に何かあったら……俺は……」

「まぁまぁレオン。そんな深刻な顔したら、彼が疲れちゃうよ。ウチに居れば安全なんだから力を抜いて」

 レオンに茶のおかわりを差し出しながら、イロケムシが言った。

 

「さて……どうするか。やはり山田医師に診てもらうべきだろうか」

 ヴィンセントが、慎重にそう言った。

「まぁ、いずれにせよ、そう焦らなくていいんじゃない。『セフィロス』も疲れているみたいだし、サンルームを暗くして、一眠りしてもらったら」

「そうだな、ヤズー。準備してくる」

「あ、手伝うよ」

 そんなことを話ながら、イロケムシとヴィンセントが席を外した。

「……迷惑かと思ったが、やはりここに連れてきて良かったと思う」

「迷惑だ」

「おい、セフィってば、そんな言い方ないだろ。レオンがパニックになったのも無理ないって」

 深く吐息したレオンをかばうように、クラウドが言う。こいつもこれでお人好しなのだ。

「アンタだって、女体化したときはパニックしただろ」

「女体化などと言うな。気色の悪い」

 思い出したくもない記憶を呼び起こされ、オレは吐き捨てるようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

「……いや、参考になるかもしれん。いろいろと聞かせて欲しい」

 無遠慮なセリフはもちろんレオンだ。当の『セフィロス』はもう舟を漕いでいる。

「てめぇらに話すことなど何もない。今は無事に男に戻ったんだからな」

「そ、その……月のものが関係していたと……それは事実なのか」

「とんでもないことを聞くな、レオン、てめぇは!」

「なぁに、大声上げて騒々しい。ああ、ほらほら『セフィロス』。もうおねむみたいだね。ここはうるさいからあっちの部屋に行って休もうか」

 ヤズーがソファに沈み込んだ『セフィロス』の腕を取る。そして驚いた声を上げた。

「わっ……軽い。簡単に持ち上げられちゃったよ。本当に女の人になっているんだねぇ」

「乱暴にしてはいけないな。そら、立てるだろうか」

 イロケムシとヴィンセントとで、過保護なまでに『セフィロス』を甘やかす。そいつがまたむかっ腹にきて、怒鳴りつけそうになったが、間違いなく文句を言い返されるので口を噤んでいた。

 

「はいはい、彼はもうベッドでぐっすりだよ。それで何怒鳴り合ってたの?」

 と言うイロケムシの問いに、クラウドが面白がった口調で答える。

「怒鳴ってたのはセフィだけ。今、女体化経験者として、レオンがいろいろ質問しているわけ」

「だから女体化などというな! チョコボ小僧!」

「まぁまぁ、あなたもそう怒らないでよ、カルシウム足りてないんじゃないの?お茶のお代わりいる?」

「冷たいものにしろ!……ああ、気色悪い。あの感触を思い出してしまった」

「大げさねぇ。たかだか一週間程度のことだったじゃない。情けない」

 アイスコーヒーにしたのだろう。ブラックのそれをミルクと一緒にテーブルに置くと、ヤズーはさもくだらないというようにため息を吐き出した。

「あの一週間はオレにとって、一ヶ月にも等しかったんだ。今、思い出してもおぞましい」

 そういったオレに、何の躊躇もなく、レオンが言う。

「そうだな、まずは順序立てて訊ねよう。アンタの場合、女性化の原因はわかっているのか?それとも、何の前触れもなく……」

「前触れなんぞなかったに決まっている。いつもどおり朝起きて、胸のボタンがはだけているのに気付いたんだ。それでそこを見てみたら…… だから!言わせるな!」

「……生々しいな」

 そう言ってレオンは頬を上気させた。

「その……アンタは……どんなだったんだ。あの……『セフィロス』のように、胸が……」

「うん、すごいナイスバディだったよ。胸がボーンでね、腰がこう細くなってズボンが全然合わなくなってね。仕方ないからオレのワードローブを貸してあげたんだよ」

「そうか……」

「細々説明するなイロケムシ!」

「まぁいいじゃない。でも、彼はこういう人じゃない。精神的な負担は多かったみたいで、ほとんど家に引きこもっていたよ。ね、セフィロス?」

「『ね、セフィロス?』じゃねぇ!誰だって、女の身体なんかになったら引きこもるだろう」

「まぁ、引きこもりをおすすめするワケじゃないけど、あの『セフィロス』といえど、身体は女の人になっているわけだからね。不用意に夜ふらふら出歩いたりしないほうがいいね」

「……言われてみれば確かにそうだな。その……彼はあまり身体の変化に頓着がないようで、ごく普通に出掛けようとするから……」

 思案顔でレオンが言った。おそらく今日もそんな『セフィロス』をひっさらうようにして、この場所に連れてきたのだろう。