『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

  

 

「とにかく、これだけは言っておく。女体……いや、女の身体になっている間は認めたくないが、本来の力の半分も出ない。よくよく気を付けておくんだな」

「……ああ、その点はうかつだった。もっと気を配ろう」

「いや、おまえはもうそれくらいでじゅーぶんだよ」

 呆れたようにそう言ったのは、クラウドだった。

「ただでさえ、口うるさいんだから。あんまりしつこくすると『セフィロス』に嫌われちゃうぞ」 

 茶目っ気たっぷりに指さし、バチンとウインクする。憎々しいがこんなしぐさもよく似合う容姿をしているのだ。

「む……それは困る」

「ま、適度に目を配っておけば大丈夫だよ。コスタ・デル・ソルじゃ地理がわからなくてそうそう動けないでしょ」

 というのはイロケムシだ。

「それよりさ〜、レオン、フラチなコト考えんなよ」

 チョコボ小僧が唇を尖らせて、クスクス笑いながら突っ込む。

「な、なんだ?」

「だってさ〜、今、『セフィロス』は超魅力的な女の人なんだよ。エッチしたいとか〜……」

「バカか、貴様は!」

 オレの声とレオンのものがかぶった。

「この俺がそんな下世話な真似をする男に見えるのか!常に彼には紳士的に接するように心がけている!」

「このアホチョコボ!気色悪いと言っているだろう! そんなことをこのクソ真面目な男に言って血迷われたら……」

「セフィロス! アンタもこの俺が不埒な振る舞いに及ぶとでも……」

「まぁまぁ、ふたりとも。椅子から立ち上がって怒鳴らないでよ。ヴィンセントがびっくりしているじゃない」

 ヤズーにたしなめられるが、ぞくぞくと背筋を這う気色の悪さは消えない。 

「あ、い、いや、大丈夫だ。クラウドが唐突なことを言うから……少々驚いた」

 ヴィンセントが咳ばらいをしながらそう言った。想像したのだろう。いつもは陶器のような白い肌に朱が浮いている。

「別にそんなに驚くようなことじゃないだろ。男ならやっぱ綺麗な女の人見たら萌えるじゃんか。あ、俺はヴィンセントがいるからそんなことないけど」

「いい加減にしろ、クラウド。俺は一刻も早く彼を元に戻したいと考えている。女体になった『セフィロス』も美しいとは思うが……」

 そう言いながら今のヤツの肉体でも思い出したのだろうか。レオンは顔の中心を押さえて、ソファに沈んだ。

 

 

 

 

 

 

「……それでどうする? 明日あたり山田センセに来てもらう?」

 ヤズーがスマホをいじりながら訊ねた。

「そ、そうだな……『セフィロス』が嫌がらないなら、一応診てもらったほうが……やはり俺としては安心だし……」

「ぶつぶつつぶやくな。言っておくがヤマダーに診せても、治るってもんじゃないぞ。時間が経たんと変化はない」

「それはわかっているが……」

 オレのアドヴァイスを聞きながらも、どことなくせわしなげで落ち着かないレオンだ。

「『セフィロス』はどうしてる?」

「だからサンルームで寝てるってば。どうしたのよ、レオン、そわそわして」

「……ああ、すまない。いや……俺はまだパニックが収まらなくて」

「無理もないな。今日はここでゆっくりしたまえ。医師には明日往診していただこう」

 ヴィンセントがそういうと、一同は納得して頷いた。

 

 この日の夕食はテーブルに椅子を二脚増やしての食事となった。

 広いテーブルだが、男がプラスふたり増えるとなると、それなりに窮屈に感じる。

 レオンはどこか居心地悪そうに縮こまっていたが、『セフィロス』のヤツは堂々としたもので、自身のペースで悠々と食事をした。

 

 明けて翌日、予定どおりというべきか、心配だとくり返すレオンの要望に従い、ヤブ医者を呼ぶことにした。

 いや、来いと言ってすぐに来てくれるわけではない。

 この家では車で毎回迎えをやっているのだ。

 

「はい、では、あーんしてくれたまえよ。大きく口を開いて、あーんね」

 医者に言われるままに、『セフィロス』が、素直に口を開く。

「ふむ……おかしいところは無しと」

「おい、ヤブ医者、根本的におかしいだろーが。コイツ、女になってんだぞ」

「ああ、ちみ、相変わらずうるさいねぇ、声が大きいんだよ、コレ」

 山田という医師は、さも騒々しそうにオレを避けると、ヴィンセントがすすめたソファに腰を下ろした。

「ふむふむ、しかし、世の中には不思議なことがあるものじゃの、ソレ」

「そのわりにはびっくりしてなさそうだけど、ヤマダー」

 クラウドが無礼な呼び名でそう聞き返す。

「だれがヤマダーじゃね、だれが。まぁ、この年になると、ちっとやそっとのことじゃ驚かなくなるもんじゃよ」

「ふーん」

「彼がなぜ女性になっているかなど、そのしくみはわからんよ、コレ。ただ、身体のほうは健康であるからして、そちらの心配はなさそうじゃの、ソレ」

 医者の見立てに、とりあえず、レオンは安堵の息を吐いたようだった。