『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 KHセフィロス
 

  

 

 

「『セフィロス』、お腹いっぱいになった。ソファで休む?それとも、奥の部屋で一眠りしたいかな?」

「その前にデザートはどうだ。フルーツをたくさん買ってきてあるから。グレープフルーツでも剝こうか」

 ヤズーもヴィンセントも、あのクラウド少年でさえも、私にずいぶんと気を使ってくれる。

 ここの家の輩は、皆、私には親切だ。少々居心地が悪くなってしまうほどに。

 

 ……きっと、同じ顔をしたセフィロスなどは、私が多少なりとも過ぎる気遣いに、居心地が悪く感じていることなどはまるで気付いてはいまい。

 しかし私だとて、人並みの感性はある……つもりだ。

                                                            

 ヴィンセントが丁寧に剝いてくれたグレープフルーツを摘み、紅茶を飲むと気分が落ち着いてくる。

 勧められるまま、ソファに深く腰掛けると心地良い微睡みが襲ってくる。

 あたりまえのように、となりに寄り添ってくれるレオンの肩に寄りかかり、目を閉じる。

 彫刻のようにレオンは動かない。

 この男の几帳面さは、出逢ったときから変わらないようだ。

 

 私は不自然に出ぱった胸を眺め、細くなった腹をさすってみた。

 不思議な話だ……

 ……こちらの世界のセフィロスは、毛虫を見るように嫌がっていたが……

 よくよく考えてみれば、一つの身体にもうひとつの生命が宿るというのは不思議ではないか。想像してみればみるほど面白い。

 赤子という存在に興味はないが、ひとつの生命体と考えれば……実に気を引かれる。

 

 戯れに生命を作り出すのは罪であると、私のような者にでもわかっている。もちろん、そんなつもりもない。

 だが……想像してみるくらいよいではないか。とても楽しくもある。

 

「どうした。眠くなったか。ベッドに移るか、『セフィロス』」

 耳元でレオンにささやかれ、意識を戻す。

「ソファだとエアコンの風が直接当たるからな。向こうの部屋に……」

「ふふ……」

「どうかしたのか?」

「レオン。おまえもこちらのセフィロスのように気色が悪いと思うか?」

 頭を預けたまま、言葉を紡ぐ。

「え……な、何の話だ」

「私の腹が膨らんだら……」

「セ、『セフィロス』……!」

「生命の神秘だ。……おまえは興味を引かれないのか」

 もうひとりの私が、自室に引っ込んだのをよいことに、笑みを隠さず彼に訊ねた。深い意味はないのに、レオンは青くなったり赤くなったりしながら、咳払いをしている。

 そして、どもりながらもようやく答えたのであった。

 

 

 

 

 

 

「いや、その、正直……俺も興味があ、あるといえば……ある。きっと……その、もし、もし、アンタに子どもができたとしたら、とても可愛らしく美しいのだろうな。見て……みたい気もする」

「あー、そうね。わかるわかる。ウチのセフィロスがいないから、言いたい放題いえるけどさー。あなたの子でしょ。きっと綺麗な赤ちゃんだろうね~。なんか見てみたくなっちゃった。やっぱり銀の髪なのかなぁ」

 ヤズーがカップを持ったまま、話に加わってきた。クラウドも寄ってくる。

「でもさー、ニンシンってそんな簡単なもんじゃないんだよ~。吐き気がしたりして、ゴハン食べれなくなるし、お腹が重くて動けなくなるし。大変なんだよ、お母さんは」

「ぷっ、ヤダ、兄さんたら、『セフィロス』にお母さんって単語、すごい違和感」

 ヤズーとクラウドが声を合わせて笑う。

 私も釣られて微笑んだ。

「あ、でも赤ちゃんはお父さんがいないと出来ないんだからさ。レオンに似たら、ブラウンの髪の可愛い子かもしれないよ」

 ヤズーが茶化すようにそう言った。とても楽しそうだ。

 ヴィンセントもティーカップに口を付けながら、笑っている。

「え、い、いや、俺は、そんな……!」

「ああ、なるほど。……ふたりの遺伝子が受け継がれるわけだからな。茶の髪かもしれない」

 私は頷いた。

「お、俺は銀の髪がいいと思う。アンタに似ていればきっととても……」

「……想像すると楽しいだろう。なぜ、こちらのセフィロスはあんなに嫌がるのだろうな」

「性格的なもんでしょ。さ、お茶のお代わりいる人~」

 私の質問を簡単に片づけて、ヤズーが空になったティーカップに茶を淹れて回る。

 

「こちらのセフィロスのときは……そんなに大変だったのか」

 いささか興味を引かれてそう訊いてみた。あの大男が取り乱している姿を想像すると、つい笑ってしまう。

「まぁね、ほら、ああいう性格の人だからさ。か弱い女性の身体になったのが、ものすごく不快だったみたい。力比べでジェネシスに負けて、真っ青になっちゃってね~」

 ヤズーがさも可笑しそうにそう言う。

「そうそう。『悪夢だ』とか『このオレが』とか言ってたよね。そんで胸に晒し巻いて目立たなくして、ガウンひっかぶって部屋にこもっちゃってさ」

「ヤズー……クラウド……。それだけセフィロスにとっては負担が大きかったのだ。笑っては気の毒だぞ」

 ヴィンセントがやんわりとふたりをなだめる。

 そんな彼も当時のセフィロスを思い起こすと微笑ましい部分があるのだろう。声に笑みが含まれている。