『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 KHセフィロス
 

  

 

 

「いったい何の不思議なのかはわからないが…… 日にちが経てばこの身体も元に戻るのだろうな」

 私の言葉に、レオンが頷き返した。

「大丈夫。必ず治る。皆、側に付いているのだから安心していてくれ」

「いや……そうではなく。レオン。私はそれほど不快に思ったり、動揺しているわけではない。心配はいらない」

「そ、そうなのか。俺はてっきり……」

「むしろ、レオンのほうが困っているように見えるぞ、ふふ……」

 そう言って、そっと頬を撫でてやると、今度こそ首筋辺りから赤くなってしまった。

「……不慣れなことだから、おかしな気分ではあるがな。それより、この肉体に、別の命が宿る可能性があるというのが面白く感じる。生命の神秘などというものに、思いを馳せたことはなかったが、今ならば少し考えてしまうな……」

「なぁに、それって赤ちゃんが欲しいって話し?」

 クラウドが通俗的な発言に言い換えた。

「まさか……そんなわけにはいかぬだろう。だが、レオンの子がどんなふうなのか見てみたい気もする」

「セ、『セフィロス』…… そ、そんなことを言わないでくれ。なんだかおかしな気分になってしまう。お、俺だとて、もし許されるなら……」

「ああ、ちょっとほらほら。兄さんが変なコト言うから、ふたりが暴走しかねないでしょ。この状態で万一……なんてことになったら、それこそどうなっちゃうのかわからないじゃない。赤ちゃんの話は想像で楽しむ程度にしておきましょ」

 ヤズーがパンパンと手を打って、私たちを正気づかせた。

 レオンはやたらと咳払いをくり返して沈黙しているが、本気で見てみたいと考えていたのはむしろ私のほうだろう。

 もし、彼との間に『子』という絆が増えたら、私たちの関係がどのように変化するのかを想像したのだ。

 ……私は人一倍欲張りになっているらしかった。

 

 

 

 

 

 

「どうかした、『セフィロス』も黙り込んで」

 ヤズーに声を掛けられて、私は意識を会話に戻した。

 これ以上、物思いを勘ぐられては良くない。この身体はまもなく、もとの男の肉体に戻るはずなのだから。

 

「……いや、どれくらいで、元通りになるかと考えてたのだ。おまえたちに迷惑を掛けることになるだろう」

 そう言った私に、ヴィンセントがすかさず応える。

「滞在期間のことを気にしているのだろうか。そんなことは大丈夫なのだ。君は身体を楽にして、ゆったりと過ごしてくれ」

「……だが、別に病気というわけでもない。安静にしているだけなら、ホロウバスティオンにひとりで居てもできる」

「いや、ひとりはダメだ。13機関の機関員がアンタに接触しようとするかもしれないし、街のパトロールが城まで行くことは考えにくいが……だが……」

「レオンは相変わらず心配性なのだ。……すまんな」

 と、ヴィンセントたちに謝った。

 結局、治るまで、この地で過ごすことになるだろうからだ。

 

「まぁまぁ、にぎやかになっていいじゃないの。テーブルがちょっと狭いかも知れないけどね」

 ヤズーがそう言うと、他の者も声を合わせて笑った。

 静まりかえったアンセムの城とは異なる……コスタ・デル・ソルの午後だ。

「ところでさ、セフィが男の身体に治ったのって、アレが来たからってホント?」

「やあねぇ、兄さん、アレだなんて。フツーに生理って言いなさいよ、生理って」

「何かソレ、言いにくい…… 恥ずかしい」

「変な兄さん。まぁ、偶然だったのかどうなのか、今となってはわからないんだけど、元に戻ったのが、生理が来た翌日だったの。それで、まぁ、その日がキーになっているのかなって」

 ヤズーは何の衒いもなく、女性の月のもののことを何度も口にした。

「で、では……ゴホッ、か、必ずしも、その……生……月のものが来たからといって治るとは限らないんだな」

 レオンが訊きにくそうに言った。

「だからさ、全然、わからないことだらけなんだって。ホント、我が家は不思議なことに見舞われるよね。ああ、まぁ、我が家というのは、君たちも含めてのことだけどね」

「そうか……何はともあれ、安静にしておけば間違いはないだろう。ここは暑いから、外に出るときは気を付けなければ」

 うんうんと頷くレオンだ。私の面倒をひとりで見るつもりなのだろうか。

「……コスタ・デル・ソルは初めてではない。私はひとりでも大丈夫だ。せっかく来たのだ。レオンはここでの生活を楽しめばいい」

「そういわれてもな……やはり俺はアンタのことを気にしてしまう。鬱陶しくてすまないが、側に居させてくれ」

「ふふ……レオンの好きにすればいい」

「あ~あ、なんだかんだ言ってバカップル? 障害が多そうな恋愛だと思ってたけど、けっこう上手く行ってるみたいだよね、あなたたち」

「ヤ、ヤズー、バカ……だなんて」

 ヴィンセントが苦笑しているが、どうやらヤズーと同じ意見のようだった。

「ちょっ……アンタたち、ラブラブなのは仕方ないけどさ~。そっちの世界の『クラウド』のことも忘れないでよ。傷つけたら許さないからな、同じクラウドとして!」

「……心配はない。レオンはアンセムの城に来ても泊まっていくことはないし、常にクラウドのことを気にしている。おまえが言うような問題は起こらない」

 私はそう説明してやる。

 嘘ではない事実なのだから。

「それはそれで、ちょっと『セフィ』、寂しくない~?」

 クラウドが言う。

「寂しい……のか。ああ、そうだな」

 頷くと、となりのレオンが慌てたように口を開いた。

「えっ……いや、アンタ、そんなこと一言もいわないから……」

「レオン、相変わらず鈍感だな~!ブーブー!そんなおまえがなぜモテるかね~」

 結局最後までレオンは、クラウドたちに茶化されて、歓談は終いとなった。

 まもなくカダージュやロッズが帰ってきて、夕食の支度に入るのだろう。

 

 ホロウバスティオンとはまったく異なる一日が、静かに終わりに向ってゆく。

 明日は少し近くを歩いてみよう……

 私はそんなことを考えていた。