『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 KHセフィロス
 

  

 

 

 

「こんなところで、何してやがる!」

 ぐいと私の手を取り、怒鳴りつけたのは同じ顔をした男だった。

「あぁ、こら、セフィってば! 乱暴にしちゃダメだろ!」

 そう言って、引っ張り返してくれたのは、一緒にやってきたらしいクラウドだった。

「これはおふたりともお揃いで」

 おどけた調子でジェネシスが言った。

「てめぇはすっこんでろ! おい、『セフィロス』!なんでひとりでふらふら出て行きやがる! 家の連中みんなで探し回っているんだぞ!」

「…………」

「黙ってちゃわかんねーだろうが!」

「……レオンの携帯に……」

「何?」

「レオンの携帯に、メールを残しておいたはずだが」

 私は不機嫌さを隠すことなく、そう言い返した。突っ慳貪な物言いになる。

「まともに『変換』も使いこなせていないひらがなだらけのメールじゃ、よけいに心配になるだろうが!」

「まぁまぁ、セフィロス。そんなに一方的に怒鳴られたら、彼だって困惑してしまうよ。いいじゃないか、無事だったんだから」

 ジェネシスはいつも私の味方をする。そう言ってどう猛な男をなだめた。

「おい、クラウド」

「わかってるってば。今、みんなに連絡する」

 そう言って、クラウドはスマートフォンを器用に操り始めた。

「ジェネシス、どうしてこいつと一緒にいる? まさか貴様が誘い出したんじゃなかろうな」

「偶然、市場で会っただけだ……」 

 私はそう口を挟んだが、彼は黙ったままギロリと私をにらみつけた。

「いやだなぁ、おまえは疑り深くて。だいたい俺は彼がこっちに来ていることさえ知らなかったよ」

「へらへらするな。だから貴様は疑われるんだ」

「これが地顔なんだってば」

「……手を出したりしていないだろうな」

 クラウドには聞こえないような声で、確認する。まったく同じ顔をしてこの男は私を何者だと思っているのだろう。

「そんなはずないだろう。ましてや今、女性の身体になっているじゃないか。早く連れ帰って休ませてあげた方がいい」

 ジェネシスは紳士的にそう言った。

 

 

 

 

 

 

「オッケー、セフィ。みんなに同報メール送った。まぁ、『セフィロス』が無事で良かったよ。じゃあ、帰ろうか」

「待って、チョコボっ子。俺は車だから。送っていってあげるよ」

「そんなこと言って、ちゃっかり上がり込む気なんじゃねーの? 言っておくけど、ウチは取り込み中だからね。お客様のおもてなしはできませんから」

 ツケツケとクラウドが物申した。

 彼のこの態度はジェネシスを恋敵と考えてのことらしい。ジェネシスはヴィンセントに熱烈な片思いをしているのだ。

「そんなお気遣い無用だよ。ほら、荷物もあるし、車のほうが楽だろう?」

 クラウドの物言いに不快にもならず、ジェネシスはあくまでも親切に誘ってくれる。

「いいだろう。ジェネシス、おまえ、運転しろよ。オレが助手席に乗る。クラウドは後ろの座席で『セフィロス』を引っつかんでいろ」

 細かな席割りまでも指示されて、ようやく我々は車に乗り込んだ。

 

「この紙袋何買ったの? グレープフルーツと……何これピーマン?すごいいっぱい……」

「パプリカだ」

 と、私はクラウドに説明した。

「グレープフルーツは、屋台を眺めていたらただでくれたのだ。試食もしたが甘くて美味かった」

「あー、今、『セフィロス』、超美女だもんね~。その屋台の人って男でしょ」

「うむ……そうだが」

「男は美人に弱いんだよ。ヴィンセントもよくもらいものしてくるよ」

「そうか……」

「おい、何なごんでやがる。まだひとりで外出した理由を聞いとらんぞ!このボケ老人!どうして、あんな場所をほけほけとほっつき歩いていたんだ」

 『セフィロス』が声を荒げて訊ねてくる。どうもこの男は、私がひとりで外に出たことが気に入らないらしい。

「……ただ散歩に出ただけだ。青空市場とやらを見てみたかった」

「途中で変なヤツに声をかけられなかっただろうな? 言っておくが貴様の身体はいつもと違うんだぞ」

「……くどい。ひとりで歩いていただけだ。ジェネシスとは市場で偶然出会った」

「まぁまぁセフィ。無事に見つかったんだし、そんなに怒らなくてもいいだろ。家に帰ったら、文字の『変換』の方法、教えてあげるからね」

 クラウドが笑いながらそう言った。

 ……どうやら、私の残したメールでは不十分だったらしい。

「それより、グレープフルーツ、セフィ、好物だろ。『セフィロス』にお礼言えよ」

「フン……手間かけさせやがって」

 セフィロスはむっつりと黙り込むのであった。