『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<12>
 
 KHセフィロス
 

  

 

 

 

「あ、ヤズー、帰ってきたようだ」

「車みたいだね。あれ、ジェネシスのだよね」

 家の中から、ヤズーとヴィンセントが話している声が聞こえた。

 それでも、一番最初に玄関から飛び出してきたのは、レオンだった。

 

「ただいま~。ほら、『セフィロス』、降りて降りて。いいよ、袋は俺が持つから」

 そう言ってクラウドが先に降ろしてくれた。

「『セフィロス』! 無事だったのか……良かった……!」

 両手を広げて迎えてくれたので、抱きしめられるかと思ったが、レオンは途中まで歩み寄ってくると、ハッとしたように辺りを見回し、咳払いをしてごまかしたのであった。

「セントラルの青空市場に行ってたんだって? そんなところ言ってくれれば、いつでも連れて行ってあげるのに」

 ヤズーが笑いながら後からやってきた。もちろんヴィンセントも一緒だ。

「……問題ない。ひとりで気ままに歩いてみたかっただけだ」

 私はそう応えた。

「ま、そういうこともあるよね~。あ、これね。今日の戦利品。グレープフルーツはただでもらったんだって。美人は得だよね~」

 クラウドが二つの包みをヴィンセントたちに見せる。

「ああ、これは見事なグレープフルーツと……パプリカ?こんなにいっぱい?」

「いいじゃない、ヴィンセント。マリネサラダにたっぷり使えるよ」

 ヤズーが袋を受け取って家の中に戻る。私たちもその後に続いた。

「ジェネシス、時間はあるのだろう。せっかくだから寄っていってくれたまえ」

 ヴィンセントが誘うと、ジェネシスは私には見せたことの無いように破顔した。

「でも、取り込み中のようだから……迷惑じゃないかい」

「いいや、そろそろ夕食の支度をと思っていたところだったから、食べていってくれたまえ。それより『セフィロス』を保護してくれてありがとう。君が一緒で安心だった」

 ヴィンセントはどこまでも清らかにそう言って笑う。彼は私とジェネシスの遊びの関係など、まったく知らないのだ。

 ……まぁ、そうでなくては困るのだが。

 

 

 

 

 

 

 広間のソファに座ると同時に、もうひとりのセフィロスが私に声を掛けた。

「おい、てめぇ、スマホは持っているのか?え?携帯?なんでもいい。とにかくそいつを出せ」

 そう言われて、内ポケットに収めてあった、薄い携帯電話を取り出す。

「ああ、渡さなくていい。とにかく今ここで『変換』を覚えていけ」

 面倒くさそうに告げると、レオンを呼んだ。

「おい、レオン。おまえ、責任もって、こいつに文字変換を教えろ。そうだ。今、ここでだ」

「大げさな……内容が伝われば良いではないか」

 私はそう言ったが、ヤツは憮然とした表情で、

「たどたどしいひらがなで、『さんぽにいく。しんぱいしなくていい』などと書かれる方が、よほど不安になるんだよ!いいから覚えろ。そう難しいことではない」

 と言った。

 ……まぁ、覚えておいて損はないのだろう。仕方なく、となりに座ったレオンに教えを請う。

 

「い、いいだろうか。ごほん、まず一文節入力してから……ここのボタンを押して……」

「ふむふむ……」

 私が操作するのを、覗き込むようにしていたレオンが目線を泳がせて、顔を背ける。

「レオン。下にいろいろ候補とやらが出てきたが……」

「あ、ああ、そうしたら、こっちのボタンで、該当する文字を選ぶんだ」

「なるほど……こうして、こうか」

「そうだ。……ええと、では次の文字を変換してみようか」

 そう言って、ふたたび私の手元に目線を送り、すぐに別の方向を見た。

「……どうした、レオン。落ち着かぬ様子だが」

 気もそぞろな態度が気になり、声を掛けた。

「え……い、いや、あの……」

「何かおかしいところがあるのか? ならば操作しているときに言え」

「いや、そうではなくて……」

「あー、レオンの位置から覗き込むと、胸元丸見えだもんね~」

 あっけらかんとそう言ったのはクラウドだった。

 なるほど、ヤズーの貸してくれた服は、胸元がVネックになっている。浅いものだから気にしていなかったが、角度によっては胸の谷間が見えるというのだ。

「い、いや、よこしまな気持ちはないのだが……」

「気にするな」

 と私は言った。

「い、いや、だが……」

「やだな~、『セフィロス』ってば、気にするなって言われても男なら気になるに決まってんじゃん。相変わらずボケーッとしちゃって、もう」

 心外なセリフを吐いて、クラウドがげらげら笑う。

                        

 ……そんなこんなで、私は何とか、文字変換をマスターしたのであった。