『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 KHセフィロス
 

  

 

 

 コスタ・デル・ソルにやってきてから一週間と少し……

 その日の朝は、なんとなく頭がぼーっとして、熱を持っているように感じられた。

 

「おはよ、『セフィロス』。はは、なんだか眠そうだね」

 居間にやってきた私に、ヤズーが声を掛ける。

 

 日曜日、この家の朝食は八時半と決まっているらしく、いつもは仕事に行くクラウドも、その時間になると寝ぼけ眼でダイニングにやってくるのだ。

 私も合わせてその時間には席に着くようにしている。

 

 普段の自身の生活からは考えられない規律正しさだ。なぜならいつも私は眠くなったときに休み、目が覚めたならば起きるという生活をくり返してきたからだ。

 

「おはよー、『セフィ』。まだ、眠いの?ほら、ミルク飲んで目覚まして。朝メシ冷めちゃうよ」

 クラウドがとなりの席を指さして、私を手招いてくれた。

 

「ああ……少し、ぼうっとする」

 そう答えると、

「やだなー、昨日、夜更かししたんじゃないの~。言っとくけど、うちに居る間はエッチ禁止だからね」

 ケラケラ笑いながらそんなことを言った。

「バカを言うな! 俺がそんな真似をする男に見えるのか!」

 真っ正面から受け取って、怒鳴り声を上げるのはレオンだ。からかわれているというのに、まったく自覚がない。

「ああ、ほらほら、食卓で騒がないでよ。『セフィロス』、飲み物は何にする? ミルクでいい? ジュースもあるけど」

「……ミルクでいい」

 ヤズーにそう告げて、私はクラウドとレオンの間の空席に腰を下ろした。

 途端にあくびが喉を突いて出る。

「ふあ……」

「どうした、『セフィロス』。寝付きが悪かったのか? 食欲は? 大丈夫か?」

 心配そうに訊ねるレオンだが、私は面倒くさくて手を上げるだけで済ませた。

 

 ……今朝はあまり食欲がない。

 少し熱っぽいせいだろうが、そんなことを口にしてはレオンが大騒ぎするだろう。

 そう考えながら、目の前に並べられた朝食に手を付けた。

 きつね色のトースト、アスパラガスのグリーンサラダに、スクランブルエッグ、いろいろなハムやチーズなどがとても美味しそうに見える。

 パプリカとサーモンのマリネは、以前、私が青空市場で購入してきたものの残りなのだろう。色とりどりの野菜とオレンジ色のサーモンが、とても綺麗だ。

 とりあえずは食べられるだけ食べよう……そう考えて、サラダとコンソメスープに手を付けた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、もういいの? どっか具合悪い」

 サラダとスープだけ口にした私に、クラウドが心配そうに訊ねてきた。

 もっと食べようと思っていたが、食べ始めたら、それ以上は入らなくなった。

「『セフィロス』?口に合わなかったのだろうか?それとも何か……」

 ヴィンセントまでが不安そうに声を掛けてくる。仕方なく正直に答えた。

「……今朝は食欲がない。少し頭がぼーっとするが、大事はない」

「頭がぼうっと? 熱はないかな……ヤズー」

 ヴィンセントがそう言うと、ヤズーが電子体温計を持ってやってきた。

「鬱陶しいかも知れないけど、計っておいた方がいいよ、念のため」

「やれやれ、過保護な連中だ」

 つまらなさそうにそっぽを向いて、新聞を読んでいるセフィロスが言った。彼は朝食を終えるとすぐにソファに転がる習性がある。

 促されるままに、リビングに移って体温計を抱えた。

 ヴィンセントが気遣って、ハーブティーを淹れてくれる。

 ……ちなみに、私の身体は未だ女のままだ。どこが痛いとか苦しいとかそういった症状はないが、なんとなく感じる違和感はそのままに残っている。

 だが、今日までは普通に食事もしていたし、熱っぽく感じることもなかった。

「そろそろ疲れが出る頃だからね。ちょっとした風邪を引いちゃったのかも」

 ヤズーがそう言いながら、私から体温計を受け取る。便利な電子体温計は、ぴっと音が鳴ればもう検温出来ているのだという。

 

「う~ん、36度9分。少し、微熱があるかなぁ。『セフィロス』は普段の体温は低めだものね」

「胃から下腹が重いような気がする。熱っぽくもあるのか……よくわからない」

 私は正直にそう応えた。