『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 KHセフィロス
 

  

 

 

 

 身体のだるさは、夜に掛けて、ますます深刻になった。

 微熱まで出て来て、家人を心配させてしまった。

 

 朝から食欲がなかったが、夕食にはほとんど手をつけることができない。

 下腹が、鉛を抱えているように重いのだ。

 

「悪いがスープだけでいい。早く横になりたい」

 正直に私はそう言った。

「可哀想に……苦しいのだな。鎮痛剤が効きにくいのだろうか」

 ヴィンセントが、ミネストローネを多めによそってこちらに寄越す。

 それを横合いから奪ったのはレオンだった。

 

「ベッドに横になれ、『セフィロス』。食べさせてやるから」

 居間のソファに座ったままの私にそう告げる。

「…………」

「コスタ・デル・ソルは夜は少し冷える。足を冷やすと良くない」

「……大丈夫だ。自分で食べられる」

 一応、そう言ってみた。レオンが納得しないだろうということは予測済みだ。

「いいから。こんな時くらい、少しは甘えてくれ。俺は気が利かないから、何をしていいのかよくわからん」

「……そうか。ではそうさせてもらう」

「……良かった。熱いからゆっくり食べよう」

 何かやれることを見つけて嬉しかったのだろうか。表情をくつろげてほっとしたようにレオンが言った。

 

「あーもー、ふたりとも暑苦しいなぁ。どんだけラブラブだって見せつけたいの?」

 クラウドが絡んでくる。この子は本当にくるくると表情が変わって面白い。

「こら、兄さん、ヤキモチ焼かないの。今は『セフィロス』が普通の状態じゃないんだからね。女の人にやさしくするのは基本でしょ」

「女の人っつたって、もともとは男の『セフィロス』じゃん」

「そんなこと言ってるからモテないんだよ、兄さん」

「ヤズーってば、ぐっさりくること言うなぁ!だいたいシツレーだぞ。俺だってけっこう女の子には……」

「ふたりとも……!」

 そう言って彼らの言い争いを止めたのは、もちろんヴィンセントだった。

「いいかげんにしなさい。彼は具合が悪いのだから。レオン、スープ皿とデザート、今夜の分の鎮痛剤を持っていくから、先に寝かせておいてくれないか」

「了解した。頼む」

 レオンはそう応えると、ソファの私の側まで来て、茶化すようなクラウドの視線も気にせず、軽々とこの身を抱き上げた。

 

 

 

 

 

 

 ガウンを脱いで、寝台に横たわっていると、本当に病身になったような気分である。

 せかせかと世話を焼くレオンに、そう言ってみた。

「……女の月のものは、いわゆる生理というヤツだろう。病気ではないのだ。あまり過保護にするな」

「そうは言っても、実際に熱が出ているし、腹も痛いのだろう?」

「……たいしたことはない」

「アンタには初めての経験なんだ。大事をとって取りすぎるということはなかろう」

 そう言うと、テーブルに置いてあったスープを持ってきた。食べさせるという気持ちに変化はないらしい。

「温かいものを腹に入れたほうがいい。少しでもいいから食べよう」

 さじを差し出して、説得するレオンに、私は素直に口を開いた。

 

 無事にスープを飲み終えると、腹の痛みが楽になった気がする。

 やはり温かいものを摂ったのが良かったのだろう。

 不意に眠気も襲ってきたので、正直にレオンに伝えた。

「眠る前に手洗いに行ってくる。私の世話はもうないから、おまえも自分のことをすればいい」

「……手洗いまで歩けるか?」

 そう訊ねられ、ややうんざりして言い返した。

「重病人ではないのだ。自分で行く」

 さすがにそれ以上は言ってこなかったが、過保護も限度を超すと鬱陶しくなってくる。

 ずっと私に付いていないで、適度にホロウバスティオンに戻ればいいのに。

 時間軸の差はあるとはいえ、もう十日近くコスタ・デル・ソルにいるのだ。ホロウバスティオンの時間に換算しても半日くらいは経っていることだろう。

 

 可愛らしい花が飾ってある綺麗な手洗いに行くと、用足しに座った。

 この格好には慣れないが、今は仕方がないのだ。

 

 やわらかな紙を使い、水洗のレバーを引こうと手を伸ばしたとき、それは『始まった』。