『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 KHセフィロス
 

  

 

 

「この果物は美味い。いい口直しだ」

 私はテーブルの上に無造作に盛られたすももを囓っていた。

 ちなみに取り分けられた焼き飯は、きちんと食べ終えてからだ。

「失敬な人じゃね、ちみは。チャーハンは美味かっただろうが、コレ」

「……食べられないこともない味だった。ああ、すももが美味しい」

 そのとき、ポケットに突っ込んだままの携帯が、ブーブーと鈍い音を立てて振動した。

「またか、鬱陶しい」

「出てやりたまえよ。みんな、心配しているんじゃろう」

 ため息混じりに医者が言った。

「……ちゃんと出掛けると告げて出てきたのだ。何の問題もない」

 そのときだった。

 狭い診療所の扉が激しく鳴った。

 

 ドンドンドンドン!

「チュース! 先生、いる~?」

 ……この声はクラウドのものだ。

 一瞬私を迎えに来たのかと考えたが、すぐにそれはないと気付く。彼は今日は仕事でずっと出突っ張りだったからだ。当然、口論になった居間にもいなかった。

「先生~!お酒持ってきたよ。もらいもんだけど!」

 ドンドンドン!

「まったくまたあの少年かね、コレ。ドアが壊れちまうよ、ソレ」

 ぶつぶつと口の中で文句を言いながら、痩躯の医者は面倒くさそうに玄関口に足を運んだ。

「はいはい、今、開けるよ。相変わらずせわしないねぇ、ソレ」

「お邪魔しま~す!」

 そう言って、自分の手で、ぐいと扉を開け放って入ってきた。

 やはりクラウドだ。

 こちらの世界の彼は、まったくもって明け透けで、邪気が無い。

 

 

 

 

 

 

「あれッ? セフィ……『セフィロス』じゃん。こんなとこで何してんの?」

「ほれ、酒をよこさんかい。いや、この人がな。ひとりでセントラルをほっつき歩いておったんじゃよ、コレ。だから連れて帰ってきたのじゃが……」

 さっそくワインの栓を外しながら医者が言った。

「えー、それってまずいじゃん。今は女の人なんだからね~。夜道は危険だよ」

「ふん。この辺りの暴漢などには遅れをとらぬ。よけいな心配だ」

「そうは言っても万が一ってことがあるでしょ。家の連中にはちゃんと告げて出てきたの?」

「……まぁな」

「怪しいなぁ、もう。晩飯は?」

「今、ここで馳走になった」

「ああ、まずいチャーハンか」

 遠慮会釈なくクラウドが言い放った。

「失敬だね、ちみは~。わしの得意料理なのじゃぞ、コレ。今日は食べていかんのかね、ソレ」

「そうしようかとも思ったけど、『セフィロス』連れて帰らなきゃ。あ、果物もらうね」

 勝手にすももを手にとってパクつく。すっぱさはあまり気にならないようだ。

 そのとき、タイミング悪く、ふたたび携帯が鳴った。

 性懲りもなくレオンの名が浮かんでいる。また切ってやろうかと思ったが、私の手から、小さな携帯をひょいとクラウドがすくい上げた。

 

「おい、レオン~? 誰だって?俺だよ。わかんないの?もー。そう、クラウド! 俺今、『セフィロス』と一緒にいるの。大丈夫連れて帰るから!」

 クラウドがひときわ大きな声でそう言う。

「でもさー、なんで『セフィロス』ひとりにしておいてんだよ。えー?ダメだろ、それ。こっそりでも後付けなきゃ。フツーのときと違うんだからさ。俺なんてよくヴィンセントの後ろを…… えー、違うってば、そーゆーんじゃなくて。まぁいいや。もう少ししたら帰るから!やっぱ今日は俺と『セフィロス』の分、夕食はいらないから、ヴィンセントたちにそう言っておいて。じゃーね!」

 おそらく強引に話を切り上げたのだろう。最後は乱暴にそう言って通話を絶ってしまった。