『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 KHセフィロス
 

  

 

 

「もー、ダメじゃん、ホント、『セフィ』ってば。レオン、すごい心配してたぞ」

「…………」

「で、ほら、何があったの?」

 どっかと椅子に座ると、クラウドは中央に置いてある焼き飯を取り上げ、がつがつと食べ出した。まずいとうそぶいていたくせに何の遠慮もない。

「ちょっとセンセ。なんで、これこんなにこがしてんのよ。それに野菜もっと小さく切ってって、いつも言ってるでしょ。もう」

 食べながら文句だけは一人前だ。

 医者は冷蔵庫から牛乳瓶を取り出してクラウドの前に置いた。きっと彼の定番なのだろう。

 どうやらこの様子を見ていると、ひんぱんにこの家を訪れているのだと伺える。

「ちょっと物足りないんだけど」

「まずいまずいというわりにはいつも食いつきがいいね、ちみは。言っとくがもうチャーハンはないぞよ。果物を食べなさい、果物を、コレ」

「ちっ、しょーがねーなー。すもも、すっぱい!!」

 呆れたように眺めていた私に、クラウドは目線を戻す。そしてあらためて、

「で?」

 というように話を促した。

「……何があったのかって訊いてんじゃん」

「何もない。何度も言わせるな」

「だってひとりでセントラル歩いてたんでしょ。うちの連中を連れずに」

「……私だとて、たまにはひとりで考え事をしたいときもある」

 グラスをテーブルに戻し、軽くクラウドを睨み付けた。

「考え事って何? レオンのこと?」

「……自身のことだ」

 低くそう言い返した。

「だってさぁ、身体の問題はどうしようもないじゃん。治るのを気長に待つしか……」

「治らなかったらどうする!」

 苛立ちが頂点に達した私は、声を上げた。その様がめずらしかったのか医者が、こちらに視線を寄越した。

 

 

 

 

 

 

「治らなかったら、もう私はホロウバスティオンにも、この場所にもいられない。こんなみっともない姿で生きていくことなど……」

「ちょっと……ちょっとちょっと、何、急にそんなに思い詰めてるの? この前、みんなでしばらく様子を見てみようって話してたじゃん」

「あんな大勢に囲まれた場所で取り乱せるか……!」

 吐き捨てるように私は叫んだ。

「『セフィ』……」

「この肉体では元の身体の半分の力も出せん。……おまえのいうレオンだとて、いつまでもこんな私にかまけていようはずもない!」

「うわっ、そんなでっかい声で。ほらぁ、山田先生がびっくりしているよ」

 男性同士の関係を平気で口にした私に驚いたのか、クラウドが焦ったようにそう告げる。

「知ったことか!」

 するどく言い放った。

「ま、待ってよ。治らないって、決まったワケじゃないんだよ? ただ時間がかかっているだけかもしれないんだから……」

「では、どれほど待てばいい? あと一週間ほどでいいのか?それとも一年?二年?十年ほども待たねばならんのか!?」

「うわわわッと」

 私に眼前で迫られて彼は態勢を崩した。

「そ、そんなこと……言われても……」

 焦ったような表情がさらに私を苛立たせる。

「待ってよ、『セフィロス』。レオンだって治るまで待ってるって言ってたじゃん。それでふたりでホロウバスティオンに帰ろうって」

「そんなこと!」

 クラウドが悪いわけでもないのに、尚も私は言い募った。