嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<1>
18禁注意
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

 ヴィンセントの細い腕が、俺の背に縋り付く。

 綺麗に爪を摘んである彼の指は、決して肌に傷を刻んだりしない。

 

「……あッ……あッ……ク、クラウド……!」

 紅い瞳が熱に浮かされたように潤んでいる。薄く開かれた唇から、せわしない吐息が漏れ、俺の名をうわごとのように呼ぶ。

 

 『可愛い』

 などという言い方をすると、彼は困惑したように眉を顰めるのが常だ。

 ヴィンセントはもう60年近く生きているという。神羅のマッドサイエンティストの手によって人体改造され、青年の姿のまま時を刻んでいるのだ。

 彼と俺がこういう関係になったのは紆余曲折在るのだが、生きることに倦んでいたヴィンセントを、ふたたび人生のステージに引きずり上げたのはこの俺だ。それだけは間違いないと思っている。

 

「……ク、クラ……ウド? なに……?」

 俺の意識が目の前のことではない、別の方向へ向いているのを敏感に感じ取ったのだろう。いや、実はこうして少しでも他に気をやらなければ、自分の身体が持ちそうにないのだ。

「どうもしてないよ。……アンタのこと、考えてたに決まってるだろ」

 華奢な肢体を抱き直し、涙の軌跡の残る頬に口づける。

「ん……あッ……」

 繋がったまま、動いたせいだろう。彼は切なげに形のよい眉を寄せた。

「ん……あッ、はぁ……はぁ……クラウド……もぅ……」

「……苦しい?」

 耳朶に息を吹きかけるように訊ねる。

 目を閉じたまま、何度も頷くヴィンセント。彼は本当に体力がない。身長では負けているが、腕力とウエイトは俺の方が数段上なのだ。

「ヴィンセント、好き……」

 甘えた声でつぶやき、頬ずりしながら、首筋に口づける。

「ん……あ……クラウド……」

 微かな刺激が、繋がった部分から伝わるのだろう。つらそうな吐息がいっそう早くなった。

「アンタの身体……全部、好き。大好き……綺麗……」

 やわらかな黒髪に顔を埋め、薄く骨の浮いた脇腹を撫でる。

「やッ……ああッ……もぅ……」

「もうダメ?」

「苦し……クラウド……」

 新しい涙が浮いたかと思うと、それは呆気ないほど簡単にボロボロと頬を伝ってシーツに吸い込まれた。

 なだめるように額に接吻し、汗で張り付いた髪を撫でつけてやる。そして華奢な脚を抱えたまま、ゆっくりと動き出した。

 俺たちの動きに合わせ、ベッドがギシギシと抗議するように音を立てる。

 

「あッ……んぁッ……あッ……ああッ……!」

 鼻に掛かったような掠れた悲鳴が、彼の唇を割ってこぼれ落ちる。縋り付く腕に、わずかながらにも力が込められた。

「ん……ヴィンセント……俺のこと……好き?」

「……ク、クラ…ウド……?」

「ね、好きって言って……」

 言葉を引き出すために、奥に進入し、深く抉ってやる。

「あぁッ! ……ああッ……ク、クラ……!」

「ヴィンセント……言ってよ……気持ち……いいんでしょ……?」

 人一倍恥ずかしがり屋のヴィンセントには、こんな言葉でさえ可哀想な要求なのだろう。だが、肌を重ねているときくらい、つれない唇から俺を求めるセリフを聞き出してやりたいのだ。

 

「ほら、ヴィンセント……言ってみて?」

 寝台のきしむ音が早くなる。

「あッ……ああッ……あぅ……ッ」

「このままイキたいでしょう?」

 ロコツな物言いに上気した頬が、さらに朱に染まった。だが、もう彼は限界のはずだ。苦しげに息を継ぐ唇がようやく言葉を紡ぎ出す。

 

「あッ……い、いい……す、好き……」

「だれを……? ちゃんと言って。……でないといつまでもこのままだよ」

 意地の悪いセリフを耳元でささやく。

「……ク、クラウド……すき……好き……だ」

「ん、よく出来ました……じゃ、しっかりつかまっててね」

 背中からすべり落ちそうな彼の腕を、首に回すよう掛け直す。

 身体を密着させ、薄い肌に自身を刻み込むように動いた。繋がった部分が痙攣するように俺を締め付け、耐えきれず低い呻きが漏れてしまう。

「んぁッ……あッ……あッ……クラ……ウド……ッ」

「……うん……俺も……限界みた……い」

 

 堕ちたのは一緒だったと思う。

 

 奥ゆかしい彼とは異なり、貪欲に銜え込むその部分に、俺は熱の固まりを迸らせた。ヴィンセントが二度目の精を放ったと同時に…… 

 

 

 

 

「おはよー、お腹空いた!」

 シャワーを終え、簡単な部屋着に着替えた俺は居間へ行った。そろそろ朝食の時間だ。

 今日は休日だから、朝もいつもよりゆっくりできる。ヴィンセントも休日くらい寝坊すればいいのに、今朝、俺が目覚めたときにはすでに腕の中にはいなかった。

 

「おはよう……クラウド……」

 いつもどおり、やさしい微笑を浮かべ、俺を迎えてくれるヴィンセント。だが、もともと白い肌が、なんだか今日は透き通るように青ざめている。顔色が優れないのは、やはり無理をさせてしまったせいだろうか。

 ヤズーが皿を取りに奥に引っ込んだスキを見はからって、俺はヴィンセントに耳打ちした。

「……ヴィンセント、身体、平気?」

「……心配ない……座っていてくれ、クラウド」

「う、うん」

 ……朝は本当に素っ気ないヴィンセント。昨夜はあんなに可愛かったのに。はすっぱなヤツは苦手だが、彼ほど慎み深く羞恥心の強い恋人もいささか寂しいカンジもする。せめて家に居るときくらい、もっと側にくっつかせて欲しい。

 

「おはよ〜……兄さん」

 ぼーっとした面持ちのカダージュが起きてきた。庭から野菜を運び込むロッズ。偉そうなセフィロスは「ごはんですよ」と声を掛けられるまで、ソファで寝そべったままだ。起床時間は早いくせに。

 俺がテーブルに着くと、習ったようにカダージュ、ロッズも座り始める。

 その場所から声を掛ければよいものを、わざわざ居間のソファまでセフィロスを呼びに行くヴィンセント。そのセフィロスと一緒に食卓にやってくる飼い猫の『ヴィン』。

 ちなみに、『ヴィン』は、ヴィンセントからもらった名前だ。雨の降る寒い日、うちのガレージの下で震えていたあの子を俺が連れてきた。

 なめらかでやわらかい黒い体毛、そして朱金の双眸……愛らしい小さな声。

 どこをとってもヴィンセントによく似ているのだ。それゆえ、一番大切な人の名の一部を借り、『ヴィン』と名付けたのであった。

 

 休日とはいえ、本当に手の込んだ美味そうな料理が並んでいる。

 和食好きなヤズーが、キッチンを手伝っていることもあって、最近朝ご飯はそちら系統のものが多い。俺も和食は大好きだ……というか、ぶっちゃけ好き嫌いは少ないのだ。

 

 今日の朝食は、白いご飯に、アサリの味噌汁、焼き魚、だし巻き卵、ウドと梅肉の和え物、肉そぼろあんかけ豆腐、さといもとインゲンの煮物、ピーマンの肉詰め&ニンジンのグラッセ(ここだけ洋食風だな。和食だけだと物足りない育ち盛りに配慮しているのだろう)。

 

「そんじゃ、いただきまーす!」

 俺がそう言うと、みんな一斉に箸を動かし始めた。

 

 いつもと変わらない休日の朝の風景……

 ……そう、いつもと変わらないはずだったのに……