嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 下っ端のクラウドを、送り出して2日目。

 はやくも事態は動き出しているようだった。

 

「ん〜、なんかちょっと、曇ってるカンジ〜。ねぇ、どぉ、ヤズー? ゴシゴシしてんのにヘンだなぁ〜?」

「粉叩きすぎなんじゃないか、カダ? ……この辺、霞んでるかな? どう思う、ロッズ?」

「うん、ホントだ。ちょっとぼうっとしているよね」

「エラソーに! ロッズはもう終わったのかよッ!」

「終わったもん! いつもキレイにしてるから特別なこと何もしなくていいんだもん! カダは面倒くさがり屋だからダメなんだよ!」

「ヤズー! ロッズがひどいこと言う〜!」

「ああ、ほらほら、よしなさい、ふたりとも。兄さんから連絡があったでしょ。……もう時間がないんだからね」

「わかってるもん〜……あ〜あ、毎日、ちゃんと磨いておけばよかった……」

「ああ、見ておれん!貸してみろ、チビガキ。ったくおまえは刀の手入れもできんのか。情けない!」

「セフィロス、やってくれるの?」

「いいか、いっぱしの剣士のつもりなら、自分の愛刀の面倒くらいちゃんと見られるようにしておけ!」

「……うん、ゴメン」

「ゴメンねぇ、セフィロス。カダが迷惑かけちゃって。俺、晩ご飯のしたくしてくるからね」

「おい、今夜は精の付くモンにしろよ、イロケムシ」

「アナタが言うとなんかヤラシイなぁ。ああ、ゴメンゴメン。ふふ、ちゃんと美味しいモノ作るから」

「あ、ねぇねぇ、ヤズー。僕、デザートも!」

「はいはい。カダはちゃんとセフィロスに刀の手入れ、教えてもらいなさい」

「うん!」

 

 ……行なっていることは物騒だが、雰囲気は至って和やかだ。

 

 昨夜、クラウドから連絡が来た。

 思った通りの収穫だった。

 

 DGと一戦交えるとなれば、十中八九、元クラウドの仲間達の手を借りるだろうと踏んだ。なんせWROの局長が連中の仲間だった男なのだ。

 リーブ・トゥエスティ……元は神羅の幹部だった人物だ。

 いつぞやのクラブでは、ヴィンセントの膝に頬ずりしていたような痴れ者だったが、なかなかどうして大した地位にいる。もっとも地位が高いから使い物になるとは言えんが、その路線で情報を引き出すには格好の相手だった。

 

『真っ赤な服着た巨乳女が居たら俺に教えて! そいつヴィンセントに大怪我負わせたツヴィエートだからッ! 俺が落とし前つけるんだからね!』

 ガキっぽく鼻息を荒くしてそう宣ったクラウド。

 

 ヴィンセントのヘタレめ。女ごときに遅れを取ったのか、ボケが。

 ……それとも、ツヴィエートと呼ばれるからには、『女であることなど理由にならないほど戦闘力が高い』のだろうか。

 ……いずれにせよ、油断は禁物だ。

 

 オレは圧倒的な勝利を好む。

 『傷だらけになって大切なものを守った』なんぞ、クラウドのような青臭いガキが口にすればいい。

 オレはオレに必要なものを奪い返すだけだ。もちろん何一つ失わずに。

 取り返したものをどうしようと、オレの勝手だろう。後は煮るなり焼くなり好きにさせてもらおう。

 だが、こんな形でオレを煩わせたDGソルジャー……ツヴィエートとやらは許さん。

 DGどもの頂点に君臨するツヴィエート。ほんの数人だというが対峙することがあれば、すぐさまそれとわかるはずだとクラウドが言っていた。

 ……そうそう、それくらいでなければ面白くない。

 

 久々の強敵相手に腕が疼く。

 ああ、こうしてみると、オレは根っからの戦好き……いや、そうではない。おこがましい言い方でいささか照れるが『戦士』なのだと思う。

 おのれの力量で強敵をねじ伏せてゆく快楽に酔う、生粋の剣士なのだろう。

 

 待っていろ、ヴィンセント。

 すぐにおまえを取り戻す。

 いや、どうせ貴様のことだ。オレが迎えに行ったら、その紅い瞳を大きく見開き、泣き出すかもしれんな。それともいつものように、オドオドと身を震わせて謝罪するだろうか。

 どちらにせよ楽しみだ。

 おまえの人形のように整った顔が、やわらかく微笑むのも、怯えて泣き出すのも、見ていて面白くて仕方がない。

 不思議なものだ。

 はじめて出逢ったときには、毛ほども興味を感じなかったのに。

 おまえはどう思っているか知らんが、オレはこの家で過ごす時間を楽しく感じているのだろう。いずれは皆を引き連れて、約束の地へ旅立つ時が来るだろう。

 だが、それまでのオレの居場所は「ここ」だ。

 コスタデルソルのこの家……という、それだけの意味ではない。

 ワガママで可愛らしいクラウドが居て、皮肉屋のイロケムシ、こまっしゃくれたチビガキに、図体ばかりデカイ泣き虫男……そして、紅い瞳の人形が居てくれなくては困る。

 

 なぁ、ヴィンセント。

 おまえのことだ。散々思い悩んでひとりで身を隠したことなど想像に難くない。

 ならば、一番知られたくないクラウドに、その秘密を暴露したオレを恨むかもしれん。だが、それも一時のことだ。

 貴様を悩ます外敵はすべてオレが排除する。

 オレのものに手を触れるヤツは許さない。

 ……このオレの逆鱗に触れた者がどうなるか……その紅い瞳でしっかりと見ておくがいい。

 不用意におまえを手に入れようとした者の末路をな……

   

 ……その他大勢の雑魚どもなど最初から眼中にはない。ツヴィエート連中を含め、そのトップに君臨する者……名すらまだ知らんが、そいつだけはきっちりとケジメをつけさせてもらおう。

 ……このオレを煩わせ、一時とはいえ気に入りを奪った落とし前をつけさせてもらう……

 

 

「なーに、やらしい笑い方してるの、セフィロス? さ、ご飯だよ。みんなしっかり食べてね!」

「はーい!」

「はぁい!」

「ねぇ、ヤズー、明日、何時に出掛けるの? 僕、起きられるかなぁ?」

「カダは夜更かししてないで早く寝ればいいんだよッ! 昨日もドラマ見てたから眠いんだろ!」

「なんだよッ! ロッズだってアニメの深夜放送見てただろう!録画し忘れたって言って! 僕、ちゃんと知ってるんだぞ!」

「あー、はいはい。ケンカしない。さ、早く食べなさい。明日、晴れるといいよねぇ。なに着て行こうかなァ?」

 

 ……まるでガキの遠足前日のような有様に、オレは少々疲れを感じた。