嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<41>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

  

 

 

 

 

 ……オメガヴァイス……

 その巨体の中心にヴァイスを取り込んだ……文字通りの化け物だ。

 

 私とセフィロスは二手に分かれ、左右から攻撃した。これは相手の反撃を分散させるため……そして万一、私がやられることがあっても、セフィロスにとどめを任せるつもりであったからだ。

 

 ガゥン……ガゥンガゥン……!

 

 暗い虚空にデスペナルティが吠える。

 進化したこの銃は、まるで昔から私の手元にあったかのように、手になじんでいる。

 目障りな障害物、クリスタルフィーラーを撃ち砕き、コクーンを連撃した。

 

 オメガヴァイスの「水晶」が厄介だ。

 我々の動きを遮るように四方を囲み、逃げ道を塞いでから爆発する。すでに炎の赤色を超えた白熱色の火炎は、瞬時に人体を炭化させるだろう。恐ろしいのは焔だけではない。粉々に砕けた鋭利な破片が一挙に囚われたモノを襲う。

 

「チッ……! ヴィンセント!」

 セフィロスの刀を持っていない方の腕が伸び、グンとばかりに私の肩を引き寄せた。

 剣の峰で固まりつつある水晶を砕き、活路を開いてくれる。

「あ、す、すまない……」

「ぼけっとすんな、しゃんとしろ! ボーケボーケ!」

「あ、あの……」

「そらッ! 次が来るぞ、離れろ!!」

 ドンと私を突き飛ばすと、ギリギリまで敵の注意を引きつけ、あざやかに身をかわす。

「おい、化け物め! 狙うならこのオレ様を殺ってみろ! ハッ!まぁ無理だろうがなッ!」

 

 ガキィン! ガキンガキン!

 

 セフィロスの戦闘は、ひどく優雅かと思うと、まれに力業としか言いようのない荒々しい戦い方をする。

 長刀を思いのままに振りかざし、水晶の柱をめったやたらに打ち砕いていく様は、まさに後者の戦闘スタイルであった。

 

 ……いやいや、気を取られている場合ではない。

 敵の攻撃を避ければいいというものではないのだ。一刻も早くヤツの覚醒を阻止し、その核を消滅させなければ……

  

 ガゥンガゥンガゥン!

 

 続けざまに狙撃する。

 何せ相手はあの大きさだ。まともに戦っても倒せない。ダメージの甚大な部位……ヴァイスの取り込まれた頭部の核を狙い銃を放つ。

 そうは言っても、地上からは的確な狙いが定められない。次々に足場を駆け上がり、空に跳躍しつつ銃撃するのだ。

 もちろんセフィロスは、私などより遙かに早い動きで、核に斬撃を加えている。

 

 私の銃弾とセフィロスの一撃が、同時に放たれた瞬間……これまでビクともしなかった外殻がバラバラと崩れだした。

 

 ォォオオン……ォォオオン……!

 

 という嘶きはオメガ自身の慟哭だろう。

 

「よし、いいぞ、ヴィンセント!」

 タッと着地し、勢いよくセフィロスが言った。

 彼にしてはめずらしくも感情を露わにした言葉だった。

 しかし、油断したわけでは無かろうが、その一瞬の間隙を縫って、水晶の檻がセフィロスを襲う。

 

 キィンキィンキィン……!

 

「あ、あぶない、セフィロス!」

 ガゥンガゥンとデスペナルティが吠える。

 私は、離れた位置から水晶の根元を破壊した。セフィロスのように迅速に側に寄り、腕を取るような余裕はなかったのだ。

 

「だ、大丈夫だろうか……? は、破片でどこか切ったりなど……」

 心配する私を横目に、わずかばかり不満げな表情を浮かべると、

「よけいなことをするな」とばかりに、ツンとそっぽを向いてしまった。

  

「あ、あの……あの……すまない…… つ、つい……」

「よけいな手出しをするな。オレが貴様に庇われてたら立場がないだろ!」

「そ、そんなつもりでは……」

「ああ、もういい! さっさと終わりにするぞ!」

 案外セフィロスは些細なことで機嫌を損ねてしまう。史上最強のソルジャーで、神羅の英雄とまで言われた人物なのだからプライドが高いのはよくわかっている。だが、こんな一面を見ると、自分よりもずっと年少なのだと感じ、恐れ多くも彼に対し親しみのようなものを抱けるのだ。

 それは私にとって嬉しくもあり、また感動でもあった。

 

 ギィィン! ガキンガキンガキン!

 ガゥンガゥン……ガゥン!

 

 虚無の空間に剣と銃の音だけが響く。

 そのたびに外殻の破片が飛び散り、徐々にコアが現れる。

 

「もう少しだ、ヴィンセント!」

 ミサイルを避けながらセフィロスが叫んだ。

「……ああ……君も気を付けてくれ」

「ケッ、誰に言ってやがる!」

「た、大切な君にだ」

「枕詞に『誰よりも』をつけろ!」

「え、いや、あ、あの……うわッ……!」

 後方宙返りでレーザービームを避けた私に、セフィロスが人の悪い笑みを浮かべた。