LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 ヤズー
 

  

 それからいったいどれくらいの時間が経ったのだろう。

 俺は頬にひんやりとした砂の感触に目を開いた。

「っ…… どこだ、ここは……」

 砂浜とはいっても、コスタ・デル・ソルの海岸線のようになだらかで広大なものではない。ちょうどUの字型になっている小さな浜辺に打ち上げられていた。

「カダ……カダージュ……!」

 俺はようやく気を取り直すと、最愛の弟の名を呼んだ。

「カダージュ、ロッズ!ヴィンセント!」

 月がはぐれた雲に時々隠されて、はっきりと周囲の見当がつかない。

 あれだけ大きな客船が沈んだんだ。俺たち以外にも、この浜辺に打ち上げられた可能性はあるはずだ。

 俺はなんとか自力で立ち上がると、弱々しい月光をたよりに、浜辺を歩いた。

 

 すると、何て幸運なことにすぐさま、カダージュの小柄な身体と大柄なロッズを発見した。

「カダ!ロッズ、しっかりしろ」

 すぐさま駆け寄って、カダージュの頬を軽く打つ。

「う……ん」

「ヤ、ヤズー……?」

 ふたりは意識を取り戻したらしく、俺をすぐに認知した。

「よかった、ふたりとも無事だな!?」

「う、うん……あのとき、誰かが助けてくれて……」

 と、夢見るようにカダージュが言った。それが錯覚であろうと、事実であろうと、そんなことはどうでもよいことだ。カダージュとロッズが無事であるのなら、なにも言うことはない。

「後は、兄さんたちを探さないと……!」

 ふたりの無事な姿に勇気づけられ、俺は残りの家族を捜しに歩き出した。

「カダたちはそこで待っていてくれ。どこか怪我してるかも知れないし、体力を使うべきじゃない」

 俺がそういうと、カダージュはやや不満そうな顔つきをしたが、素直に頷いてくれた。 ふたりの居場所を忘れないように、しっかりと頭にたたき込み、残りの者たちを捜しに行く。

 兄さんとセフィロスは大丈夫だろうが、ヴィンセントが心配だ。

 まだ水の中に居るのだとしたら、浜辺の方を歩かなければ見つからない。

 

 

 

 

 

 

「兄さん、ヴィンセント、セフィロス!」

 声を上げながら、歩き続けると、Uの字型の浜辺の、もっとも奥まった辺りから声が聞こえた。

「兄さん!、ヴィンセント、セフィロスー!」

「おい、イロケムシ、こっちだ!」

 この力強い声はまぎれもなくセフィロスのものであった。

「セフィロス、みんな、無事!?」

「ああ、情けない話だが、女に救われた。もう少しすりゃ、ヴィンセントとクラウドも、目ェ覚ますだろ」

 セフィロスの足元には、仲良く、クラウド兄さんとヴィンセントが折り重なるようにして横倒しになっていた。

「ガキどもはどうなんだ?」

 セフィロスのその言葉に、

「うん、大丈夫。向こうで待ってる」

「そうか、そりゃラッキーだな」

 はぁあと大きく息を吐き出し、セフィロスが言った。

 水面がぱしゃんと跳ね、ところどころに斑文が浮かんでいる。誰かが水の中に入っているということだ。

「セフィロス、誰か居るよ。泳いでる。あなたたちを助けてくれたっていう女の人?」

「多分そうだろう。……あんなもんが本当にいるんだな」

 さすがに参ったという口調でセフィロスがつぶやく。

「あんなもんってなによ。助けてくれた女の人のこと?」

「……行くぞ。ふたりを起こして、あの女のところへ」

「え? あ、まぁ、助けてもらったお礼をいう必要はあるね。ヴィンセントと兄さんは大丈夫なの?」

「水は吐き出させた。気を失っているだけだ」

 そういうと、セフィロスは兄さんを抱き上げ、首の筋を、ぐっと押し込んだ。

「……はッ! あ、はぁはぁ……ヤ、ヤズー?」

「良かった、兄さん、無事で……」

「後はヴィンセントだな。イロケムシ、上体を起こしてやってくれ」

 セフィロスの言葉に従って、ヴィンセントの身体を持ち上げると、兄さんにするのと同じように、ツボをぐいと押し込んだ。

「ゲホッ!ゴホッ!あ、あ……ヤ、ヤズー……セフィロス?」

「よし、これで全員目を覚ましたな。イロケムシ、あの女が姿を消す前に急げ」

 そういうと、『セフィロス』はしっかりと立ち上がり、対岸に向かって駆けだした。