LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 ヤズー
 

  

 

「ヤ、ヤズー、こうしていても事態は変らない。身体も冷えてしまう。そこの青年を連れて、どこぞでも一夜過ごせる場所に行かなければ……」

「そ、そうだね、ヴィンセントの言うとおりだ。なんとかそっちの人を目覚めさせて……」

 未だ横臥したままのセフィロスによく似た人物のことを指して、俺はそう言った。

「人魚姫ちゃん、この王子様のことは俺たちに任せて。必ず無事にお城に届けるからね」

 俺は不安そうにしている彼女にそう告げた。

 その口上に納得してくれたのか、彼女は何度も振り返りながら、海の中へ姿を消したのであった。

 

「……すごい、人魚ってホントに居たんだ〜。しかも顔がヤズーそっくりとか笑える」

 兄さんが緊張の糸が切れたようにそうつぶやいた。

「全然笑えないでしょ。どう考えてもおとぎ話の世界に迷い込んでしまったとしか考えられないんだもの。……まいったなぁ」

 ため息を吐く俺に、

「で、でも、ぼくたち誰一人として欠けてないんだよ。みんなが揃っていれば絶対大丈夫だよ。ちゃんとおうちに帰れるよ」

 カダージュが声を励ましてそう言った。

「そうか……そうだな。すまない、俺が弱気になってどうするって話だよね」

 気を取り直して俺は倒れている青年に顔を向けた。

「そっちのセフィロスのそっくりさん、なんとか意識を取り戻せないかな。水を飲んじゃっているかしら」

「おい、そいつの身体を起こせ、ツボを押してみる」

 我が家のセフィロスの言葉に、兄さんとヴィンセントが両脇に膝をついて、王子の身体を持ち上げた。

 セフィロスがぐっと力を込めると、ぐったりしていた身体がびくりと痙攣して、前のめりに倒れそうになった。

「ゲホッ!ガハッ!」

 彼は激しく咽せると、荒い呼吸を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「はぁッ、はぁッ……なんだ、貴様らは」

 きらびやかな服装をしていた彼が、俺たちを見回しながら低くつぶやいた。

「ちょっとぉ、さすがに『貴様ら』扱いはないんじゃない?一応、あなたを助けたことになると思うけど」

「ゲホッ、ゴホッ!……どこの者だ。見たことのない服装をしているな」

 警戒を解かずに彼が訊ねる。

「我々はコスタ・デル・ソルと呼ばれる土地に住む者だ。もっとも……君はそこを知らないだろうが。ただ、海難事故に遭ってこの場所に流されてきたのだ。信じてもらえないだろうか?」

 穏やかにヴィンセントがそう告げた。

 彼の言葉には鎮静作用があるのだろうか。セフィロス似の王子様はなんとか現状を納得してくれたように見えた。

「……フン、無様な姿をさらしたな。俺は……」

 と、途中まで言いかけて、言葉を飲み込む。

 案の定、我が家のセフィロスを見てのことだった。

「なんだ……貴様は。その顔……」

 と、絶句したところに、

「そりゃあ、こっちのセリフだぜ。二十数年このツラと付き合ってきたが、ここまでそっくりなヤツには出会ったこと……ああ、いや、ないこともないか。この世界にはそっくりな人間が三人くらいはいるって話しだからな。……おまえ、名は?」

 と、いささか不躾に訊ねたセフィロスに、彼はいかにも王子らしい名前と何世という王族の身分を明かした。

「ああ、やっぱり王子様だったんだね」

 俺がそう言うと、王子は

「やっぱりとは?どうして王子だと気付いた。ただの貴族の男にも見えるはずだ」

 と、何かを警戒しているような言葉を投げかけてきた。

「え、ええと、気品というか……雰囲気が他の者とは異なるから……」

 ヴィンセントが言葉を選んでそう告げた。

「フン、そうか。……おまえはそこそこ物が見える男らしいな」

 どこまでも偉そうに王子様が言った。

 どうやら彼は、我が家にいるそっくりさんのセフィロスに、中身も似ているらしかった。