LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 ヤズー
 

  

 

「ふぅ……人を呼ぶにしてもこんなに暗い海岸ではな。少しかかるが俺は城に歩いて戻る。おまえたちはどうするつもりだ」

 セフィロスそっくりの王子様が乱暴に訊ねてきた。

「俺たちは旅行者だからどこにも行く当てがないんだよ。できれば一緒にお城に連れて行ってくれないかな」

 俺がそういうと、彼は思いの外、あっさりと承諾してくれた。

「かまわん、歩けるのなら付いてこい」

「ありがとう!ああ、自己紹介がまだだったね。俺はヤズー。弟のカダージュに、ロッズだ。それにクラウド兄さんに、セフィロス、ヴィンセント」

「ふ……ん、家族には見えないが……」

「確かに血のつながりはないかもしれないが、我々はそれ以上に強い絆で結ばれた家族なのだ」

 ヴィンセントの神妙なセリフに、ふと笑いを漏らし、

「よし、さっさと城に帰って風呂だ。ついてこい」

 セフィロスそっくりの王子様は、まるで本物のセフィロスのように偉そうにそう言って、ザクザクと歩き始めた。

 俺たちは濡れ鼠のまま、彼の後を追ったのだ。

 

「ねぇ、最初に言っておくけどさ。あなたを海から救い出したのはある女性なんだ」

 俺は足を速めて、王子に並んだ。

「……女?」

 と、彼が聞き返す。

「そう。彼女からあなたのことを頼まれたの」

「ほぅ……それでその女は?礼のひとつくらいは言っておきたい」

 意外にも王子は殊勝な言葉を口にした。

「……後日、会えるんじゃないかな。王子様のことをとても心配していたよ」

「ふ……ん、女ね」

 どことなく不満げにセフィロス王子はそうつぶやいた。

 女性に救われたというのが、納得がいかないのかもしれない。

「おい、急ぐぞ。身体が冷えてきた」

 横柄にそう言うと、彼は俺たちを促した。

 

 

 

 

 

 

 それから一時間の後、俺たちは彼の城の湯殿に集っていた。

 

「人魚姫ってどんな話?」

 やぶからぼうに兄さんがヴィンセントに訊ねる。誰でも知っていそうなおとぎ話だが、兄さんは幼い頃あまり本を読まない少年だったのだろう。

「あ、ああ、『人魚姫』は童話の中でも悲話なのだ。王子を愛した人魚姫は魔女と取引をして、その美しい声と引き替えに、足をもらうのだ。王子と会うことはできても、その愛を伝えることができず、海の泡になって消えてしまう」

「えぇっ、それって超悲しいじゃん。悲恋物なの?」

 と、兄さんが聞き返す。

「まぁ、一般的にはそう言われているよね。でも、ハッピーエンドとして伝えられているストーリーもあるんだよ。隣の国の姫と結婚するはずだったけど、王子は人魚姫を選んで、ふたりで仲良く暮らしましたとさ、みたいな」

 俺がそういうと、兄さんやカダージュらが声を上げて、

「そっち!ハッピーエンドにしないと!」

 と宣った。

「まぁ、確かにそうなんだけどね。今回ばっかは難しそうだねぇ」

 と俺は吐息をついた。ヴィンセントが、

「何故?」

 と訊ねてくる。

「決まっているじゃない。王子がああいうキャラだからだよ。ウチのセフィロスそっくりじゃない」

「ヤ、ヤズー……」

 慌てて俺に取りなすヴィンセントだ。

「オレにそっくりなのが、なんだってんだよ」

 と、案の定、セフィロスがつっかかってくる。

「あの、王子が人魚姫ひとりを守って、大事にできるとは思えなーい」

 年少組がそう言った。

「あー、それあるよね。下手したらフタマタどころか三股くらいかけるの平気そう」

 ちゃかすようにそう言ったのは兄さんだった。

「なんだと、テメェら。人が黙ってりゃ言いたい放題……」

 セフィロスが、兄さんを風呂に沈める。それを助けるようにして、ヴィンセントが声を上げた。

「ま、まぁまぁ、だが、親切な青年ではないか。見ず知らずの私たちを城に入れてくれて……こうして風呂まで貸してくれている」

「ああ、まぁそれはそうなんだけどね。しかし、今回ばっかりは不安だなぁ。そもそも人魚姫が俺のそっくりさんだというのが落ち着かないんだね」

 ふぅとため息混じりに、俺はそう言った。