LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 ヤズー
 

  

 

 俺たちは風呂から上がると、宛がわれた部屋に引き取った。

 さすがというべきなのだろう。

 城の名前さえも知らないが、腐ってもおとぎ話の古城といった風情だ。

 宛がわれた居室も、六人で使うにしても十分すぎる広さがあった。

 俺たちは、六人揃いの貫筒衣を身につけ、ようやく人心地ついた気分になった。

 

「で……?話をまとめるとどういうことになるんだ。どうすれば、この摩訶不思議な世界から帰れる?」

 部屋に据え置かれた、ワインのボトルを勝手に開けながらセフィロスが訊ねた。

「だからね、『人魚姫』のストーリーに鑑みると、これから王子と人魚姫が出会うでしょ。そしてふたりがめでたく恋に落ちれば万歳ってカンジ」

「なるほどね。でも、ヤズーそっくりの人魚姫なら、上手く行く可能性はそこそこあるんじゃない」

 と言ったのは兄さんだった。

「そ、そうだな、私もそう思う。めったにない美貌なんだから、王子の気に入る可能性は高いだろう」

 ヴィンセントも頷きながら言葉を足した。

「まぁ、なんかね。そんなふうに言われると俺としては嫌な感じはしないけど」

「けっ、イロケムシがよく言うぜ。それじゃ、今は女の出方しだいということだな」

「そうね。人魚姫ちゃんと王子が出会ってからが勝負だ。言っておくけど、人魚姫ちゃんは足と交換に声を失っているはずだからね。いろいろとフォローは必要だよ」

 俺はもっとも気になっていることを口にした。

 『しゃべれない』というのは、どう考えても不利だ。特に王子の性格がうちのセフィロス似だと思えば、まどろっこしいのは何よりも嫌いだろう。

 

「それよりも腹減ったな。そろそろメシにしてくれねーかな」

 図々しくもセフィロスがそう言った。

「そのうちお呼びがかかるでしょ。さすがにご飯たかりに行く勇気はないわ」

 俺がそういうと、セフィロスは何とも思わぬ様子で部屋を出て行こうとした。

 

 

 

 

 

 

「皆様、お食事の用意が整いました」

 そう呼ばれたのはセフィロスがふらふらと部屋を出て行って、しばらく経ってのことであった。

「もう、まったくタイミング悪いんだから。ヴィンセント、兄さん、カダたち連れて先に行ってて。俺、セフィロス見つけてくるから」

「あ、だ、だったら私も一緒に……」

 と言い出すヴィンセントだが、彼は食べるのが遅いのだ。よくよく言い含めて先に行ってもらう。

「セフィロス〜、セフィロス、どこ行っちゃったのよ。ご飯だってば〜、セフィロス〜」

 彼の名を呼びながら廊下を歩いていると、何やらさわがしい部屋の前を通った。その笑い声がセフィロスに似ている。

「ちょっと、セフィロス?セフィロスなの?何やってるのよ。ご飯だって呼ばれているんだよ」

 ノックをしながらそういうが、賑やかな笑い声が俺の声をかき消してしまう。

 致し方ない。

 確証は無かったが、声の上がっている部屋のドアを開けてみる。

「すみませーん、うちのセフィロス……」

 と言いかけたところで、部屋の有様を見て、言葉が止まってしまう。

 広い部屋の中央にお立ち台があり、美しい踊り子がその肉感的な身体をくねらせて、誘うように踊っている。

 その舞台を取り巻くように座席が設けてあり、その一番奥まったところに、王子の席があった。そこに同じ顔をした男がふたり並んで酒を酌み交わしていた。部屋の中は見目麗しい女性だらけで、一種のハーレムの様態を呈していた。

 もちろん、王子とうちのセフィロスのまわりにも、肌もあらわな女性たちが侍っており、酒に肴にと饗していた。

「な、何ここ……セフィロス、ちょっとセフィロスってば何やってんのよ!」

「なんだ、イロケムシか。無粋なヤツだな、大声を出すな」

 迷惑そうにセフィロスが言う。

「食事の支度が出来てるって声を掛けてもらったのよ。さっさと来なさいよ」

 ややヒステリックな音調で、俺はセフィロスを呼んだ。

「なんだ、客人。おまえもここで楽しんでいったらどうだ。飯も酒もあるぞ」

 そういって俺の手を無遠慮に引っ張るのは、セフィロスと中身もそっくりな王子様であった。

「さすがに溺れて死にかけたばかりなのに、女の人相手にお酒飲む気にはならないよ」

 そっけなく彼の手を振り払い、俺は身体を引いた。

「セフィロス、どうするのよ、行かないの?」

 と訊ねると、案の定、

「俺はこっちで、済ませる。後で部屋に戻るから、ヴィンセントあたりには適当に言っておけ」

 と手を振ってそう言われた。