LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 ヤズー
 

  

 

 

「あー、もう、サイテー!どうしてあの男はああエロイのよ!」

 俺はやや八つ当たり気味にそう吐き捨てた。

 さっさと食事を呼ばれた部屋へ足を運ぶ。

「あ、ああ、ヤズー。セフィロスはどうした?」

 と、真っ先にヴィンセントが訊ねている。

「ああ、いいのいいの、あの人は。ちゃかり王子様にご相伴しているから。あー、やだやだ」

「ど、どうかしたのか、ヤズー」

 おろおろと訊ねるヴィンセントに、俺は苦笑しつつ応えた。

「ううん、別に。とにかくセフィロスのことはもういいから、ちゃんとご飯食べよう。いただきまーす」

 俺は用意された席に腰を下ろし、さっそく食事を始めた。

「どうしたの、ヤズー。なんかご機嫌斜め?」

 あどけない口調でカダージュが訊ねてくる。

「なんでもないよ。ただセフィロスってば、女の人侍らせて、すっかり宴会になじんでいるからさ。なんだかいらいらしちゃって」

 俺は美味しそうなサラダを食べながらそう応えた。

「それに、俺そっくりな人魚姫ちゃんが、よりにもよってセフィロスに瓜ふたつの男を好きになってるっていうのが一番頭にきちゃうんだよね」

「あー、なんかそれわかるわかる」

 がつがつと骨付き肉を頬張りながら、兄さんが頷いた。

「自分と同じ顔が、とんでもないヤツを好きになってるのって、けっこうへこむよね」

「そうそう。どうしてここの王子様なんて好きになっちゃってんだろう。俺とそっくりな女の子なら、もうちょっと男を見る目があるはずだと思うんだけどな」

「ま、まぁまぁ、先ほど出会ったばかりの青年なんだ。まだよくわからないことも多かろう」

 ヴィンセントが俺に取りなすようにそう言った。

「それに見ず知らずの我々を城にまで招いてくれたのだ。その点については感謝しなくてはならない」

「そりゃまー、ヴィンセントの言うこともわかるけどさ。あの様子見てたら、到底、人魚姫ちゃんひとりで満足できるような男じゃないってわかるよ」

 出されたワインをぐっと飲み干し、俺はいらいらをぶつけるようにそう告げた。ヴィンセントはまたもやちょっと困った様子で首をかしげると、淡い笑みを浮べる。

 

 

 

 

 

 

「だが、人魚姫はおまえにそっくりの美貌を持っている。外見ばかりではなく、きっと内面も美しい人なのだろう。王子がその心根に気付きさえすれば……」

「気付くだけの心の目があればいいけどね〜。あ、言っておくけど、ヴィンセントも気をつけてよね。セフィロスのそっくりさんだとすれば、好みのタイプも似ているだろうから」

 あながち冗談でもなく、俺はそう言った。

「ちょっと、ヤズー。心配になるようなこと言うなよ」

 がつがつと皿を平らげて、兄さんが言う。

「だって、事実でしょ。兄さんも王子たちの宴会観に行けば、よく理解できると思うよ」

 そんなこんなで、夕食を済ませ、俺たちは部屋に引き取ったのである。

 

「セフィロス……まだ戻っていないのか」

 ヴィンセントが心配そうにつぶやく。

「まだ宴会やってるんでしょ。いちいち心配する必要はないよ。それより明日以降、どう動くか考えないとね」

 俺は宛がわれた寝台に腰掛けてそう言った。

「セフィ抜きで決めても意味なくない?」

 と兄さんが言う。普段はケンカばかりのふたりだが、やはりセフィロスには一目置いているのだろうと思う。

「当てにならないよ、酔っぱらいなんて。それより人魚姫ちゃんのことだよ。……正直、なんとか王子への気持ちを打ち切って欲しいくらいなんだけど」

 俺は両手を広げて、ややおおげさにため息を吐いて見せた。

「そ、それは難しいだろうな。今日の彼女の様子を見ても、いかに王子に執心しているのかよくわかった」

 ヴィンセントが思慮深くそうつぶやく。

「そこなんだよねぇ。もっと別の人を好きになってくれたんなら、いくらでも協力してあげる気持ちはあるんだけどね」

「ヤズー、まだ言ってんの。そればっかは無理でしょ。だって人魚姫のストーリー上……」

 と、兄さんが口を挟むのを、俺はいらいらと遮った。

「わかってるよ。ちゃんとあの娘に協力するって」

 ほとんどやけくそ気味に俺は言い放ったのであった。