LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 ヤズー
 

  

 

 

 翌朝、朝食を終えた後、俺たちは昨夜の海岸まで足を伸ばすことにした。

 もちろん、人魚姫ちゃんの姿を捜しに行くためだ。

 昨日の今日で、気が早いかもしれないが、もしかしたらあの場所に居るかも知れないと考えてだ。

 きっと俺たちの手助けがなければ、ストーリーは悲恋の方に流れてしまうだろう。今回は力業でもハッピーエンドにもっていかなければならない。

 人魚姫は、海の泡と化して消えていくのではなく、愛する王子と末長く幸せになってもらわねば困るのだ。

「あー、頭痛ェ……。朝っぱらから、元気だな、テメェら」

 セフィロスが頭痛を抑えるように、こめかみに指を当て、ぶつぶつとつぶやく。

「ちょっと、セフィロス。本来の目的忘れないでよね。俺たちは人魚姫ちゃんに協力して、ハッピーエンドを迎えさせないとならないの」

「ああ、ああ、わかってる」

 しっしっと俺を追いやるように手を振って、セフィロスは頷いた。

「まったく二日酔いなんて情けないね」

「朝飯はちゃんと食った。二日酔いじゃねぇ!」

 と、言い合う私たちをヴィンセントが止めに入る。

「ま、まぁまぁ、ふたりとも。無事に元の世界へ戻るためには、皆で助け合わねばな」

「わかってるけどォ。さて、人魚姫ちゃんは居るかなぁ」

「こんな朝っぱらからじゃ、まだ居ないんじゃないのか?」

 どうでもよさそうにセフィロスが言い放った。まったく腹立たしい男だ。

 

 王子に借りた裾長の衣装を捌きながら、海岸線へと出る道を急ぐ。

 王城から街外れまで歩いていくだけで、この世界がいわゆる人魚姫の童話の世界だというのをつくづくと思い知らされた。

 通貨は我々の世界とはまったく異なっているし、身につけた民族衣装も、見慣れない物であった。

 市場のマーケットは見ているだけで面白そうだったが、今は先にやるべきことがある。できれば、王子も連れて行きたかったが、朝早いのは苦手だと断られた。

 

 

 

 

 

 

 俺たちはさんさんと太陽が照りつける街を抜け、海岸に出た。

 昨夜、我々が打ち上げられた浜辺だ。

「なんだよ、いねーじゃねーか。だから朝っぱらから動くのには反対だったんだ」

 偉そうにセフィロスが言った。

「まだ見ていない場所があるでしょ。湾の向こう側に回ってみよう」

 俺は率先して動いた。リーダーシップを取るのは好きじゃないが、今回ばかりは勝手が違う。自分とそっくりの姿形をしている女の子を放っておけないのだ。ましてや他の童話と異なり、失敗したら海の藻屑と消えてしまうさだめなのだ。

 

 タカタカと元気よく浜辺を走るカダージュが、すぐに対岸側に回り込んだ。俺もすぐに後に続く。しんがりはだらだらとついてくるセフィロスだ。

 

「ヤズー!あっちの岩場に女の子が倒れてるよ!」

 カダージュが叫んだ。兄さんもすぐにその場に駆け寄る。

「気絶しているのか?どこかに怪我は……」

 兄さんが青いドレスを身につけた少女を抱き上げ、様子を見る。

「と、とりあえず、外傷は見当たらないな。……君しっかりしたまえ」

 ヴィンセントが少女の頬に手を触れ、目覚めるように促した。

 彼女は、二三度身じろぎをした後、何かを言いかけてつらそうに咳き込んだ。

「大丈夫、無理をしないで。声が出ないんでしょう?」

 乱れた髪を撫でつけて、やさしく訊ねると、彼女はコクンと頷いた。その対価と引き替えに、今は二本のしなやかな足を持っている。

 

「王子様のこと、本当に本気なんだね。……声と引き替えにその足を得るとはね」

 俺は自分とそっくりな女性に向かってそう言った。

 どうにも王子の人柄を知っている俺としては、彼女の勇気ある行動も美徳と見るどころか、なんて愚かなおこないをしたのだと心のどこかでそう感じている。

「ヤズー、いずれにせよ、彼女を城に連れ帰らないと……」

 と、ヴィンセントが言った。

 そのとおりだ。彼女を保護できる場所は他には思いつかないのだ。

「わかった……それしかないものね。歩けるかい?」

 俺は彼女に手を差し出した。

 人魚姫ちゃんがおそるおそるという様子で、俺の手を取った。