LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 ヤズー
 

  

 

 

 

「……で?」

 と、無愛想に言ったのは、この城の、ナントカ何世という名のセフィロスそっくりな王子様であった。

「で?じゃないでしょ。この前も話したとおり、あなたを助けたのは彼女なんだよ。今、俺たちの部屋に居るから……」

「朝っぱらから、わいわいと出掛けていったと思ったら、ご苦労なこったな。わざわざその娘を連れ帰ってきたというのか」

 さもくだらなさそうに言う王子に、俺の苛立ちはマックスになりそうだ。

「あなたにとっては命の恩人でしょ。『礼のひとつでもしたい』って、言ってたじゃない」

「まぁ、それはそのとおりなんだがな。あいにくこれから政務がある。仕事が一段落したら、部屋に行くから、そのつもりでいろ」

 王子に適当にいなされて、俺たちはいったん宛がわれた私室に戻ることにした。そこには人魚姫ちゃんとヴィンセントたちが一緒に居る。

 

「……なぁ、ヤズー。どうも王子の様子見てると、あんまり興味なさそうに見えるよな」

 部屋に戻る道すがら、兄さんがめずらしくも何か考え込んでいるような口調でそうつぶやいた。

「そうなんだよねェ。今回ばっかりは頭が痛いよね」

「これまでの童話の世界だと、比較的王子様が良キャラだったからな……シンデレラちゃんのときは、レオンのそっくり王子様だったし、白雪姫のときはジェネシスキャラだった……ジェネシスは良キャラっていうか。まぁ扱いやすい王子だったって意味でね」

 兄さんらしくジェネシスにケチを付けて、話をまとめる。

「戻ろう、兄さん。とりあえず、部屋で王子がくるのを待つしかないみたいだ」

「うん、わかった。人魚姫ちゃんも気になっているだろうしね」

 俺と兄さんは連れだって、宛がわれた客室に戻った。

 

 

 

 

 

 

「遅くなってごめんね」

 気を取り直して、人魚姫ちゃんに声を掛ける。

 俺とそっくりな……いや、ずっと繊細なつくりの顔が、心配そうに俺を見つめる。

「王子は今、午前の政務中なんだって。終わってからこの部屋に来てくれるから」

 兄さんも敢えて笑顔を作ってそう応える。

「あんまり緊張しないで、ゆっくり待っていようよ。ヴィンセント、俺たちにもお茶、もらえるかい?」

 俺がそう言うと、ヴィンセントがすぐに茶器の用意を始めた。それを手伝うように側に寄ると、彼はひっそりと王子の様子を訊ねてきた。

「そう、そこなんだけどね。もぅ、うちのセフィロス、そのまんまそっくりさんなんだよ。見かけだけじゃない。中身もコピーしたみたいに似てるの。ひとりの女の子を相手にするより、何人もの愛人囲っておく方が大好き……みたいなさぁ」

「さ、さぁ……それは……」

 困ったようにヴィンセントが首を傾げる。

「人魚姫ちゃんにはとても言えないけど、できればあんな王子様を想うのはやめて、誰かもっと誠実な人を見つけてあげたいものだよ」

「こ、こればかりはな……物語のストーリーにも則っているし、なんともしようがないな」

「まぁ、わかっているけどね。人を好きになる気持ちって、外の人間がいくら言っても、自由になるものじゃないもの」

 つい大きなため息を吐きそうになり、俺は慌てて口を覆った。

 幸い人魚姫ちゃんはカダたちと気が合うようで、側に座ってにこやかに話を聞いている様子だ。

「……口が聞けないっていうのも、つらいとこだなぁ」

 ついつい、マイナス感情ばかりに囚われ、俺は軽く頭を振って、よけいな心配事を追い出そうとした。