LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 ヤズー
 

  

 

 

 

 頃合いを見計らって、俺は単身で王子の部屋へ足を運んだ。ヴィンセントに同行を願おうかとも思ったが、彼はいわゆる押しの強いタイプではない。それにヤキモチ焼きの兄さんが許してくれそうになかったからだ。

 

「王子様、部屋にいる?」

 俺は先日教えてもらった王子の居室をノックした。

「開いている」

 中から無愛想な声がした。

「忙しいところごめんなさい。失礼するよ」

 俺は遠慮無く居室の中へ入った。

「なんだ、おまえか、ヤズー」

 そう言われて、

「……名前、覚えてくれてたんだ」

 とちょっと驚いた。

「俺とそっくりなのが、セフィロスだろ。黒髪がヴィンセント、キンパツがクラウドだったかな」

 書類のような物を机に放り投げ、彼はそう言った。

 

「それより、何だ。なにか話があってきたのではないのか」

 王子はソファにだらしなく座ると、俺を見上げてそう訊ねてきた。

「前に座っても?」

 と訊ねると、王子はどうでもよさそうに、

「ああ」

 と応えた。

「あのね、人魚……じゃない、マーメイドちゃんのことなんだけど……」

「彼女がどうかしたのか。口数の少ない女だったな」

 初対面の印象でそう感じたのか、王子はそんなふうに彼女を評した。

「ええと、王子様から彼女を見てどう思った?変なことを聞くと思うだろうけど、こっちにも事情があってね」

「事情?よくわからんが、特別どうという印象もなかったな。ああ、だが顔はおまえにそっくりで、たいそう美しい女だと思ったが」

 王子は平然とそう言った。

 

 

 

 

 

 

「マーメイドちゃんは、あなたのことが好きなんだよ。海難事故からあなたを救ったのもその思いが強くて、命がけだったの」

 俺はやや話を誇張して言って聞かせた。

「…………」

「だから……その……本当はこういうことを無理強いするのは間違っているとは思うんだけど……あなたも彼女のことを好きになってくれれば……」

 そう言いながらも声がどんどん小さくなっているのを自覚した。

 確かに人魚姫ちゃんの気持ちにウソ偽りはなく、王子のことを心の底から愛しているとしても、王子に同様の気持ちを要求する筋合いはないのだと、俺自身もよくわかっていたからだ。

「……ごめん、勝手なことを言ってるよね、俺」

「どうして、そんなにあの娘に肩入れする。おまえにとって何か得なことがあるのか」

 王子がストレートに訊ねてきた。

 その問いにごまかすことなく俺は応えることにした。

 自分たちがこの世界の住人ではないこと、もとの場所に戻るためには、王子と人魚姫が結ばれる結末を見届けなければそれが叶わぬことをだ。

 王子はめずらしくも真剣な面持ちで俺の話を聞いてくれた。

 

「なるほどな。そういうからくりがあったわけか」

 ふぅとため息を吐くと彼はつぶやいた。

「あなたをだますつもりはなかったんだよ。いまさらそう言われても信じられないかも知れないけど」

「確かにあまりにも突拍子すぎるな。別の世界などと言われても」

 王子がつぶやく。

「そうだけど、本当に事実なんだ。……そこに人魚……マーメイドちゃんが絡んでくるんだけど、もしあなたが彼女を気に入ってくれたなら、こっちとしても嬉しいんだけど」

「気に入るも何も、まだ言葉を交わしたこともないのだからな」

「あ、あの……実は彼女、言葉がしゃべれないの。いろいろ事情があってね」

 俺がそういうと、今度こそ、王子は困惑したような表情をした。