LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 ヤズー
 

  

 

 

 

 

「口が聞けないか……ますます厄介じゃねーか」

「そ、それはそうなんだけど……」

 まさか、『足をもらうために声を引き替えにした』などと、しゃべるわけにはいかない。王子に差別意識がなかったとしても、人魚姫ちゃん自身がどう思うかはわからない。

 

「同じツラだと言うのなら、どちらかというと、おまえの方に興味があるな」

 馴れ馴れしく俺の顎をくいと引き寄せ、王子は口づけるように顔を近づけた。

「やめて、そんなつもりはないよ。俺は男だからね」

 俺は長身の男をぐいと押し返し、冷ややかにそう言ってやった。

「俺は男でも女でもかまわない。どっちでもいけるぞ」

「あなたって、本当にうちの『セフィロス』そっくりだね。顔が似ているのはともかくとして、性格までそっくりだ」

「ああ、ヤツはいい男だな。ツラだけじゃなく、性格も面白い。また一緒に飲みたいものだ」

 昨夜の宴会のことを言っているのだろう。王子は楽しげに笑った。

「まぁ、そんなわけでね。よけいなお世話かもしれないけど、ちょっと彼女のことを話しておきたかったのよ」

「……わかった。いずれにせよ、俺の命の恩人なのだから、感謝はしているし、いつまででも城に居ればいい。そう彼女に伝えろ」

「……それはあなた自身が言ってやったほうがいいと思うけど……とりあえず、わかったよ」

 今はこれくらいしか話せることはない。相手は一国の王子なのだ。俺などが口だしできる範疇など限られてる。

「おまえたちも嫌でなければ、この城に居ればいいだろ。帰る場所がないならなおさらだ」

「……ありがと。そうさせてもらうつもりだよ。図々しいけどね」

「今度の酒盛りはおまえも付き合え」

 王子は装飾過多な上着を脱ぎ捨て、楽なシャツ姿になると、ニッと笑ってそう言った。

「……気が向いたらね」

 俺はそう告げて、王子の部屋を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

「ヤズー、おかえり。……どうだった?」

 ヴィンセントが小声で俺に訊ねてきた。王子の部屋に行く前に、ヴィンセントだけには話をしておいたのだ。

「まぁ、反応は良くもなく悪くもないと言ったところかな」

 俺自身がナンパされたことは、横に退けて置いて、そう返事をした。

「そ、そうか……まぁ、まだ出会ったばかりのふたりだしな。致し方ないのかも知れない」

 ヴィンセントが慎重にそう言う。

「あー、それにしても、あの王子って、オソロシイほどセフィロスそっくり。顔だけっていうんじゃなくて、性格も瓜二つ」

「そ、そうなのか」

「ほんと、鏡を見ているようなカンジだよ。人魚姫ちゃんの王子でなければ、もう力尽くでもふたりを引き離したいと思っちゃうくらい!」

 思わず高い声を発してしまい、慌てて俺は口を噤んだ。

「ああ、大丈夫だ。彼女は少し疲れているようだったので、隣室で寝かせている」

「そ、そう、よかった。つい本音がね」

「だが……中身もセフィロスに似ている人なら、良い人間なのではないか。私は少し安心した」

 斜め上ほどにずれた発言をするヴィンセントに、俺はため息を吐いた。