LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 ヤズー
 

  

 

 

 

 

「オレがなんだと?」

 ソファからむくりと身をもたげて、セフィロス本人が聞き返してきた。

「別になんでも。ちょっと王子と話をしてきたんだよ。それでますますあなたそっくりだと確信したワケ」

「フン、だからいいヤツだと言っただろう」

「……いいヤツと言えるかどうかはわからないけど、ものの考え方まで似ているようで、やりにくいなぁ」

 やや大げさに手振りを加えて、王子とそっくりのセフィロスにそう告げた。

「ねぇ、セフィロスはあの娘のこと……人魚姫ちゃんのことはどう思っているの?」

 物は試しで、そっくりな男に訊ねてみた。

「は?別に何の興味もないがな。ツラはおまえそっくりだけど、中身は素直そうな女だ」

「……ひとこと余計なんだよ、あなたは!」

 だが……

 そう、だが……

「……何の興味もないのか」

 ふぅと俺はまたため息を吐いた。

 どうも今回の一件では、俺はため息ばかりを吐く役がらになってしまっているらしい。

 

「あ、そうそう。王子様がいつまででもお城に居ていいってさ。もちろん、人魚姫ちゃんも。その辺は太っ腹だよね」

「し、しかし何もせずにお世話になるのは心苦しいな……な、何か出来ることはないだろうか」

 ヴィンセントがいかにも彼らしいことを言う。

「確かにそうだけど、ここではお客さんの身分だからね。せいぜい王子が暇なときの話し相手がいいところじゃないかな」

「そ、そうかな。そうだ……な」

「セフィロスそっくりの王子様だから、ヴィンセントのこと気に入るんじゃないかな」

 そう言ってから、俺は慌てて否定した。

「あ、やっぱ、今の無し。ヴィンセントのこと好きになられたら困る。今のところ、ただでさえ、人魚姫ちゃんは不利だからね」

 

 

 

 

 

 

「……不利か。なんとか上手く行けばいいのだが」

「お膳立ては俺たちで頑張るとして……後はふたりの問題かな」

 俺がそう言うと、隣室から戻ってきた兄さんが、割って入ってきた。

「ちょっと、ちょーっと、ふたりとも何、悠長なこと言ってんの。上手くいかなきゃ、俺たちだって家に帰れないじゃん」

「もちろん、それはわかってるよ。でも無理やりどうこうできることじゃないでしょ。せめて幾人かいるだろうお后候補くらいになれれば上出来だと思うけど」

 と、俺は言った。

「なに!お后候補とかそんなのいるの」

「一国の王子としては普通のことでしょ。まぁ、直接王子から聞いたワケじゃないから、なんともいえない部分もあるけどね」

 俺の言葉に、兄さんは難しい顔をした。

「人魚姫ちゃんって押しの強いタイプじゃなさそうだし、難しいね〜」

 と、彼は言った。

「性格は穏やかでやさしくて、すごくイイコなんだけどなぁ。誰かさんと正反対で」

「……誰のことを言ってるのよ、兄さん」

 ちらりと俺を眺めてそういう兄さんに、タックルをかます。

「ところで意志の疎通はちゃんとできてんの?彼女、言葉がしゃべれないでしょ」

 俺が訊ねると、彼はひとつ頷いて、

「身振り手振りでだいたいわかる。いざとなったら、筆談って手もあるし」

 そう言った。

「あと、顔。人魚姫ちゃんって、ヤズーにそっくりで美人じゃん。とりあえず、フツーの男なら、あの美貌にまいっちゃうよね」

 あながち冗談でもなく、兄さんが言う。

「あー、王子も顔は好みって言ってたね」

 俺がそう言うと、ふたりは納得したように頷いた。