LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 ヤズー
 

   

 

 翌日、俺たちは街の散策にでることにした。

 もっとも、『俺たち』とはいっても、面倒くさがりのセフィロスは不参加だったわけだが。

 引きこもってばかり居ても、王子に気を使わせるし、何より人魚姫ちゃんのためでもあった。

 これから人間として、この世界で生きていくのなら、海辺だけでなく、街などの人の営みがある場所を知っておく必要があると考えたからだ。

 

「人が多くて慌ただしいね。手を繋いで歩こうか」

 俺がそう言って手を差し伸べると、彼女は素直にその手をとった。

 こうしていると、なんだが自分の妹のようにさえ思えてくる。顔がそっくりというだけではなく、女の子めいたちょっとした仕草などが可愛らしくてたまらないのだ。

「何か欲しい物があるかな?王子様にギルを交換してもらったから、いろいろと買ってあげられるよ」

 彼女は少し困ったような表情で、小首を傾げた。

 欲しい物といわれてもなかなか思いつかないのかも知れない。

「ヤズー、屋台が出てる。いろいろあるよ。何か食べようよ」

「あ、兄さん、僕も!」

 お子様組……もとい、兄さんとカダージュが、賑やかな表通りを突っ切って行ってしまう。

「ちょっと、もう、ふたりとも!食べ物のことばかりなんだから!」

 そういう俺を、ヴィンセントがまぁまぁと宥める。

「食欲があるのはよいことだし、めずらしい食べ物もあるかもしれないぞ」

「ヴィンセントまで〜。じゃあ、こっちね、人魚姫ちゃん。何か好きな食べ物はある?ああ、あれ、リンゴ飴だね。赤く熟れてて美味しそうだ。食べてみる?」

 そういいながら、俺は食べやすそうな小ぶりの飴を、彼女に買ってやった。

 彼女はめずらしそうに、それを眺め、思い切ったように、口に含んだ。その顔に笑みが広がっていく様は、自分でいうのもなんだが、花が開いたように美しかった。

「甘くて美味しいでしょ。ふふ、女の子はお菓子が別腹だって言うけど、本当らしいね」

 そんなことを言っている間に、ヴィンセントがふらふらと青物市場が並んでいる広場へ歩いていってしまう。レンガで舗装された広場に所狭しと露天が並んでいて、目当てのものを見つけるだけでも大変そうだ。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセントってば、はぐれちゃうよ」

 俺が人魚姫ちゃんを連れながら、後ろから声を掛けると、ヴィンセントは慌てたように立ち止まった。

「あ、ああ、すまない。つい…… めずらしい果実や野菜などが並んでいるから」

「まぁ、ヴィンセントは、青物市場好きだもんね」

 どこかで競りでもおこなわれているのか、広場は怒号も飛び交い、なかなかに活気がある。

「おみやげに何か買っていく?もっとも相手は王子だから、何でも持ってるでしょうけど」

「そうだな……季節の果実などはどうだろうか。タルトなどを焼いてあげたい。うちのセフィロスもあまり甘くないのであれば食べれるだろう」

「あーもー、ヴィンセントってば、女子力高いんだから。王子に惚れられないように気をつけてよ!」

 あとの半分は、人魚姫ちゃんに聞こえないよう、小声でそう告げた。

 

「しかし……ずいぶんと活気のある市場だな」

「カダ、ロッズ、兄さん、はぐれないで。危ないよ!」

 俺はずっと遅れて付いてくる連中に声をかけた。

 ヴィンセントのいうように、活気のある賑やかな市場だが、人が多いだけあって、ところによっては、スラム化している危険な場所もありそうだ。

 

「どうしよう、ヴィンセント。もう一回りしてくる?それとも買う果物決まった?」

 俺がそう訊ねると、ヴィンセントはいちじくを選んだ。

「君はどうだろうか?いちじくは好きかな」

 人魚姫ちゃんに訊ねるが、彼女は食べたことなどなかったのだろう。不思議そうな面持ちで、よく熟れたその果実を手にとって眺めていた。

「そのまま食べても、甘くて美味しいよ。それじゃ、ヴィンセント、おみやげはいちじくにして、そろそろお城に戻ろう。屋台を冷やかしていたら、もうとっくに昼を回っちゃっているよ」

 遅れている、兄さんたちを待って、俺たちはまとまって帰路に着いた。

 外に出るときはそうしろと、王子に言われたのだ。

 王城の膝元といえど、やはり危険があるというのだろう。俺たちは団体行動をとるように奨められたのだ。