LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<22>
 ヤズー
 

   

 

 

「おい、静まりかえるな。別に俺は落ち込んでいるわけじゃないぞ」

 王子が静寂を破って声を上げた。

「客観的に見れば、女たちがそう考えるのもあたりまえだし、おかしなことじゃない。ただ、だからこそ煩わしいのだという気持ちをわかって欲しい」

「あ、ああ、君の言うことはもっともだ。我々で力になれるのなら、舞踏会へ出席するのもやぶさかではない」

 ヴィンセントが頷いてそう告げる。

「オレはやめておいた方がいいだろうな。ややこしいことになりそうだ」

 そう言ったのは、王子と瓜二つのセフィロスだった。

「俺としては、セフィロスが代わりに参加してもらえるのが一番嬉しいのだが」

 冗談めかしたその言葉に、セフィロスが首を振る。

「そのかわりにうちの連中が出る。イロケムシやヴィンセントならば、女の気を引いて、十分、お邪魔虫になれるだろう」

「セ、セフィロス!」

 ヴィンセントが小声で、無礼者のセフィロスをいなす。

「ああ、是非ともそう願いたいものだ。……本気だぞ」

 と、王子が言った。

「では、まだ仕事が残っているので、先に失礼する。おまえたちはゆっくりしていってくれ」

 王子はそう言い残すと、食事の席を立った。

 

「まだ仕事……か。けっこう大変そうだよな、王子って」

 クラウド兄さんが、もごもごとデザートのケーキを食べながらつぶやく。

「そうなんだよ。ちょっと俺、心配なんだよね」

 俺は人魚姫ちゃんをはばかりながらもそう言った。

「適当に息抜きはしてんだろ。アイツはそんなにヤワな男じゃねーと思うがな」

 そっくりさんだからなのか、セフィロスはそれほど深く心配してはいなさそうだ。

「いずれにせよ、セフィロス以外は、舞踏会に参加ね。さりげなく王子をフォローしてあげないと」

 俺がそういうと、兄さんがめずらしいものを見るように、俺に目線をよこした。

「ヤズーってけっこうあの王子のこと、気にしてやってんのな。最初は中身までセフィそっくりとか言って文句垂れてたのに」

「……ま、まぁね、世話になっていることに違いはないし。それはいいとして、何よりも人魚姫ちゃんを綺麗に仕上げてあげなくっちゃね!当日のヘアメイクは俺とヴィンセントがするから!」

「そうだな……ドレスも見繕って……大丈夫。君はとても綺麗なのだ。自信を持つといい」

 不安そうな人魚姫ちゃんに、ヴィンセントが安心させるようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

「うん、やっぱり君は水色が似合うね。強い色の青よりこっちのドレスがいい。どうかな、ヴィンセント」

「ああ、私も良いと思う。……髪はどうしよう。結い上げた方がいいかな」

「トップとサイドの髪だけ、ゆるく結い上げて、耳を出した方がいいんじゃない?ちょっとやってみるよ」

 早くも舞踏会当日だ。

 俺とヴィンセントは、人魚姫ちゃんにかかりきりになった。

 ドレスをとっかえひっかえし、俺と同じ、真っ直ぐに下りた銀髪を、いろいろと結い上げて試してみる。

 舞踏会の開催は午後六時からだ。

 まだまだ時間はたっぷりある。

 

「うん、いいね!イヤリングがあまり大きすぎないものを選んで……と」

「ナチュラルなメイクも彼女に似合っているな。もとがおまえそっくりなのだから、ほとんど手を加えずともよさそうだ」

 人魚姫ちゃんが鏡に映し出された自身の姿を見て、目を丸くしている。

 それももっともなことだ。

 人間の女性になって、初めてドレスだのメイクをしてもらったりしているのだから。

 薄く頬紅を指し、ルージュを塗った彼女は、例えようもなく美しかった。

 

「ヤズー、ヴィンセント、今いい?入るよ」

 コンコンとノックの後に、兄さんの声が続いた。

「いいよ、大丈夫」

 俺がそう応えると、兄さんと王子が一緒に入ってきた。一瞬、セフィロスかと思ってしまうのだが、服装で彼と知れる。

 

「ほぅ……これはまた美しく仕上がっているな」

 世辞でもなく、王子はそう言って人魚姫ちゃんを褒めた。

「ヤズー、イヤリングをいくつか持ってきた。よければ使ってくれ」

「ありがと!ちょうど、ドレスもヘアメイクも出来上がって、アクセサリーを選んでいるところだったんだよ」

 俺は王子にそう応える。

「へぇ〜、すっごい綺麗。いや、もともと可愛いかったのは知っているけど、こうやってドレス着て、お化粧したりすると、ものすごい美人さんになるんだねぇ」

 クラウド兄さんが、彼女を見てしみじみとつぶやいた。