LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<23>
 ヤズー
 

   

 

 

「今夜は是非とも、ダンスの相手をお願いしたい」

 王子はまんざら冗談でもなく、人魚姫ちゃんの手を取ってそう言った。

 彼女が頬を桜色に染めて、こっくりと頷く。

「いい雰囲気じゃない。ふたりともすごくお似合いだよ」

 俺は人魚姫ちゃんの肩を抱いてそう告げる。

「……そうしていると、まるで双子のようだな」

 王子があらためて驚いたようにつぶやく。

「そう? ふふ、光栄だね」

 俺はそう言って、彼女と並んでみせた。

「さて……パーティは六時から始まるわけだが……セフィロス以外の者は、皆参加してくれるのであろうな」

 王子は強い口調でそう確認した。

「うん、それは大丈夫。ね?みんな」

 と、声を掛けた。

「……華やかな席は似つかわしくないのだが……君がそういうのなら、出席するのもやぶさかでない」

 回りくどい言い方で答えるのは、ヴィンセントだ。

「ヴィンセントは俺と一緒に居てくれればいいんだよ。それでご飯食べよ!」

 兄さんの目当ては、美しい女性たちでもなんでもなく、夕ご飯をヴィンセントと食べに行くことらしい。

「カダたちも行くよね。さて、そろそろ俺たちも準備をしたほうがいいのかな」

 人魚姫ちゃんのことに夢中になっていて、俺たちはまだだれひとり、パーティスーツを身につけてはいなかった。

「……女の群れから俺を守れ。頼んだぞ」

 王子は俺たちに早く支度をするようにと、言い残し、部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「……彼は大分ナーバスになっているな。身分が身分だから仕方がないのかも知れないが……気の毒に」

 ヴィンセントが人の良いセリフを吐いた。

「大丈夫だよ。適当に息抜きのできる人だし。女の人たちから守ってくれっていうのは、半分ジョークだと思うけど」

 俺は、衣装棚から、男性陣の着替えを出しながらそう言った。

 

「ねぇ、セフィはパーティ出ないんだろ?その間、どうしてんの?」

 ひとり安楽椅子で、だらしなく本を読んでいるセフィロスに、兄さんが訊ねる。

「別に。やることもないし、部屋で待っている」

 どうでもよさそうにセフィロスが応えた。

「そ、そうか、ひとりで待たせることになってしまうな……大丈夫だろうか」

 ヴィンセントが言う。

「アホか、ガキじゃあるまいし。おまえたちこそ浮かれてハメを外しすぎるなよ」

「セフィロスにそういうことを言われるとはねぇ」

 おどけたようにそう言った俺を、一睨みすると、彼はさっさと寝室の方へ行ってしまった。

 

 俺たちは用意してもらった衣装に着替える。

 少々派手だと思うが、せっかく王子が準備してくれたものだ。

「どうかな、人魚姫ちゃん、俺、おかしくない?」

 ふんだんにレースのあしらわれたドレスシャツに上着を羽織る。王子ほどではないが、十分人目を引く華やかさだ。

 人魚姫ちゃんは、拍手をして俺の変身を褒めてくれた。

 

「さて……それでは皆で会場に行こうか。少々気恥ずかしい気もするが」

 アスコットタイを綺麗に結んだヴィンセントが、俺たちを促す。

 

 パーティには、王子の失脚を悦ぶ大臣などもいるはずだ。銃がないのは心許ないが、俺とヴィンセントは護身用のナイフを上着下に仕込んでいくことにする。

 こんなものを使う必要がないのが一番なのだが……俺は自身の用心深さに苦笑した。