LITTLE MERMAID
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<26>
 ヤズー
 

   

 

 

 

「王子の部屋に行ってくる」

 俺は今どうしても、彼に会って話をしたくなったのだ。

「ヤズー……もう日付も変る。向こうも疲れていよう。明日にしなさい」

 ヴィンセントが、今にも部屋を飛び出そうという俺を引き留めた。

「で、でも……気になるじゃない!人魚姫ちゃんの話じゃ要領を得ないし……」

「彼女は楽しい時間を過ごしたと言っているのだろう。それならばよいではないか」

「それは……そうなんだけど」

 俺はもっともなことを指摘されて、口ごもってしまう。

「なんだ、ヤキモチか?同じツラの女に」

 セフィロスがからかい口調でそう言う。

「ヤキモチ? 誰が誰に!? バカなこと言わないでよ。俺は人魚姫ちゃんのことが心配で……」

「当の女はいい気分でいるんだろう。おまえの出る幕じゃない」

「……わかったよ。明日にする」

 俺は大きく息を吐き出し、白旗を揚げた。

 さすがに午前0時を超えた時間の訪問は不躾だろう。すでに疲れて眠っているかもしれない。

 今夜は素直に後に退き、明日ゆっくりと話すことにしよう。

「ヤズー、湯をもらって早く眠りたまえ。おまえも疲れているはずだ」

 ヴィンセントにそう言われ、俺は素直に湯殿に足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 朝食の後に、王子の私室に足を運んだ。

 今日は休日なので、彼もゆったりと過ごしているのだろう。いつもは俺たちと一緒に朝食をとる王子だが、その席にはやってこなかった。

 

 王子の私室の重厚な扉をノックすると、気怠げな声が迎えた。

「……やっぱりおまえか、ヤズー」

「お見通しのようだね。昨夜はすっかりとだまされたよ」

 俺はそう皮肉をこめてそう言った。

 しかし王子は一枚上手で、俺の嫌みをあっさりと受け流した。

「……おかげで姫と楽しい時間を過ごせた」

「彼女は口が聞けないでしょ。だから余計に心配だったんだよ」

 俺がそう言うと、王子はふっと笑みをこぼし、頭を振った。

「……口を聞かずとも、互いの思いは通じ合うものだ。それに彼女は美しい字を書く」

「なるほど筆談ってわけね。……まぁ、何にせよふたりで楽しい時間が過ごせたならそれでいいよ」

 俺の上がり口調に、

「どうした。何をふて腐れている」

 と問い返した。

「別にそんなんじゃないよ。ただ、一言俺にも相談して欲しかったなってコト。セフィロスにからかわれて不愉快だったわけ」

「ふははは、おまえもだまされたのか。それは愉快だ」

 王子は軽快に言った。

「俺は不愉快だったって言ったばかりでしょ」

「そう怒るな。……あの姫と楽しい時を過ごせたのだ。それはおまえにとっても本望なのだろう?」

「まぁ……それは確かにね」

 俺は言った。

「あの姫とならば睦まじくできるやもしれぬ。もっと早くに話をすればよかったな」

「そう。……それは良かったよ。姫も喜ぶ」

「……できることなら、同じ顔をした『兄』も共に欲しいのだがな」

 王子の手が伸びて、俺の髪を掬った。

 髪に口づけを落とし、王子は俺を横目で伺った。