LITTLE MERMAID
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<28>
 ヤズー
 

   

 

 

 

 夜のとばりが辺りを包む。

 陽が落ちると、気温が急に低くなる。俺はガウンの上にヴェールを巻くと、そっと寝台を滑り降りた。

 長い廊下を歩き、勝手知ったる王子の部屋を訊ねる。

 声を掛ける前にそっと扉に手を触れると、そこは鍵が掛かっておらず、あっさりと開かれた。

 

「……来たか」

 寝室に続く部屋から声が掛かった。

「不用心だね、カギが掛かってない」

 俺がそういうと、王子は声を立てずに笑った。

 天蓋付の豪奢な寝台の上で、彼は気怠げに身を起こした。

「では、カギを掛けてくれ」

「わかってる」

 俺は後ろ手に重厚な扉の鍵を閉めた。

 

「……本当に来るとは思わなかった」

 王子が笑いながらそう言う。

「そう?俺はけっこうもの好きなんだよね。……とは言っても誰でもいいわけじゃないから、あなたのこと、かなり気に入ってしまったみたい」

「それは嬉しいな」

 彼はまんざら口先だけというわけでなさそうにそう言った。

 

 俺は王子の待っている寝台に近寄った。

 彼の手が伸びて、あっという間にベッドの上に引き込まれた。薄手のローブを羽織った背中に、彼が横たわっていた寝台の暖かさが伝わってくる。

「やだな、そんなに急がなくても帰ったりしないよ」

 俺は素直に押し倒されながらそう言って笑った。

「……いつ、元の世界に戻ってしまうかわからないと言っていたではないか」

 形の良い長い指が、俺の額に掛かった髪をそっと撫でつける。セフィロスそっくりなのに、こんな仕草は本当にやさしい。

「そう。わからないんだよ。だから、この世界で後悔を残しておきたくない。……マーメイドちゃんのことは安心しているから、後は俺のことだけ」

「おまえの……?」

「あなたのこと、気になるんだよ。……誘われて嫌じゃなかった。俺には大切な子がいるのに」

 脳裏に俺と同じ銀の髪をした少年の笑顔が浮かぶ。

「ふふふ、おしゃべりをしに来たわけではないのにね。さて、自分で脱ごうか?それとも脱がしたい方?」

 そう訊ねると、

「大人しくしてろ……」

 と彼がささやいた。

 

 

 

 

 

 

「ふふ、くすぐったい……」

 首筋から胸元に、唇を滑らされ、俺は思わず身をすくませた。

「ちゃんと温かいのだな。……おまえは氷細工の人形のように美しいのに」

「それ、俺のこと?綺麗なのはあなたも同じでしょ」

「そうかな……」

 腰紐を引っ張られ、裾長のローブが床に落ちる。下着はつけていなかったから、月明かりの下、裸を晒した。

 彼の唇が胸元からさらに下に滑り落ち、脇腹を啄んだ。

「ん……」

 意識していない喘ぎが唇からこぼれた。

「気持ちいい……」

 彼の髪を指先で梳いてそうささやく。

 唇でやさしい愛撫を続けながら、彼は両手で俺の脚を割った。

 最奥に指が滑り込んでくると、その入り口を指先で刺激する。

 

「……あー、俺、こっち側は久しぶりだから……」

 受け身はここのところ経験していない。セフィロスと同じ体格の彼を受け入れるのは、いささか不安である。

「そうか……大丈夫だ、やさしくする」

 と彼は言った。

「ん……でも、あんまりやさしくされ過ぎちゃうと、気持ちよくて先にイッちゃうかも」

「……なら、それでよかろう。夜は長いのだからな」

 

 彼は本当にやさしく俺を抱いてくれた。

 狭い奥を丹念に馴らし、自身で貫くときでさえ、ゆっくりと俺の反応を見ながら身体を進めた。

「ん……あ……あぁ」

「痛いか……?」

 唇に口づけが下りてくる。

「ん……平気。動いて」

 耳元でそうつぶやくと、寝台がギシリと悲鳴を上げた。

「おまえを……返したくはないな」

「残念……こればっかりはどうしようもないの。……あ、はぁ……」

「せいぜい、あの姫を愛でるとしよう」

 繋がったまま、王子は俺の髪を撫でた。そんなやさしい仕草が嬉しく感じる。

「俺……忘れないから、あなたのこと」

 素直にそう告げた。

「ああ……私もだ」