Love letter
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「ちょっ……セフィ、アンタ、今までどこほっつき歩いてやがったんだよ! ヤズーたちより、先に家出たんでしょ!?」

「まぁまぁ、兄さん。それより今はヴィンセントのことでしょ」

「そうだよ。ヴィンセントのことなんだぞ! アンタ、普段はヴィンセントに甘えてばっかのくせして……」

「うるせぇ!アホチョコボ!『甘えてる』だとぉ? このオレ様があんな弱々しい軟弱野郎に……」

「ヴィンセントの悪口言うなッ!」

「兄さんもセフィロスも大声出さないでよ、聞こえちゃうでしょ」

 細い指を口元に宛て、シッ!と女顔のイロケムシが叱りつけてきた。

 ……ここはセントラルホテルの一室。

 もちろん、となりの部屋にはヴィンセントと件の女がやってくる予定になっている。

 断っておくが、この計画を積極的に推進したのはチョコボとイロケムシだ。まぁ、オレもヴィンセントが想像以上に女相手に手こずっていると感じてはいたのだが、だからといって特にどうこうしようという気はなかった。

 だが、クラウドのヤツだけは、そう悠長に構えていられなかったのだ。

 もちろん、それはアイツがヴィンセントの恋人ゆえ、その最愛の人が別の人間に言い寄られているとなると、心中穏やかではないのだろう。

 客観的に見れば、二十歳そこそこの小娘相手に目くじら立てるなと言ってやりたいところだったが、どうもクラウド相手にその理屈は通用しないらしい。

 ヴィンセントに言い寄るモノどもは、すべて『悪』であり、『敵』と認識し、排除すべき存在なのだという徹底ぶりであった。

 

 話を戻すと、そんなクラウドを見かねたらしく、イロケムシが、「だったら様子を見に行こう」と提案したのだ。

 当然、ズカズカと待ち合わせの場所に同席するわけにはいかない。

 となれば、一番良いのは、こちらの存在に気づかれず、彼らの様子を見守ること……場合によっては、ヴィンセントの帰宅後、さりげなく慰めてやるにも現実の状況を知ることが出来れば、アドバイスのしようもあるだろう……ともっともらしいことを言いやがった。

 まったくもって悪知恵の働くイロケムシだ。

 

 色仕掛けで、ホテルのフロントから、連中の部屋を聞き出し、そのとなりの部屋をキープしたのもヤズーであった。クラウドが何やら荷物を持って、ゴソゴソと出掛けていったのは、約束の部屋に細工するためだったらしい。

 オレが指定された室内に入ると、ヘッドフォンをしたヤズー、クラウド、カダージュが一斉にこちらを振り向いたのであった。ちなみに大男のロッズは、本日はハウスキーパーをヴィン猫と一緒に自宅待機らしい。

「ほら、セフィ、ヘッドフォン! カメラそこで確認できるからッ!」

 クラウドがグイと耳あてを押しつけてくる。

 目の前には機械機器が並べられ、小型のモニターに隣室が写っていた。

「……おい、おまえら……フツーここまでやるか?」

 思わずオレはそうつぶやいていた。

「ヴィンセントのことなんだぞ!」と、クラウド。

「そーだそーだ!」と、末のカダージュ。

「まぁ、ほら、こういうのは家族のイベントみたいなもんだから」

 成人式のような物言いをするのは、イロケムシであった。

 グイグイとヘッドフォンを押しつけられ、やや辟易としつつも、今後の展開への興味もあり、オレは素直にそいつを装着した。

 と、そのとき、まさしくタイミングを計ったように、カチャリと扉が開いたのであった。

 傍らでクラウドの、息を飲む気配が伝わってきた。

 

 

 

 

『ちょうどよかったですわ、ロビーでご一緒できて』

『はぁ……』

『先についてヴィンセント様をお待ちしている間に、きっと緊張し過ぎて具合が悪くなってしまったかもしれませんわ』

『あ……いや……』

 快活な娘の声と、半病人のような男の声が耳に入った。

 皆で、一斉にモニターを覗く。小型画面とは言っても19インチくらいはあるのだ。しっかりと女の顔も見えるし、後ろのヴィンセントも確認できた。

(……いけすかない女!)

 ボソッとクラウドが吐き出した。

 そりゃ、コイツにして見れば、どんな女であろうと、ヴィンセントと一緒に居るという時点で『いけすかない女』になるのだろう。

 そういったヤキモチの視点を抜かして、相手の女を見れば、まぁ充分に『美しい女性』と言える。ヴィンセントが話していたように、目鼻立ちのくっきりとした娘で、意志の強そうな眉が印象的だ。

 

『お会いするのは二度目ですのに、最初のときと同じくらい……いえ、今の方が胸がドキドキしておりますわ!』

『あ……は、はぁ……』

『ほら!』

 娘はそういうと、あろうことかヴィンセントの手を取り、いきなり自分の胸に押しつけた。

 イロケムシが、ヒュウッと口笛を吹く。

 阿呆のヴィンセントは椅子に掛けることもなく、木偶の坊のように突っ立っていたところ、無理やり腕を取られたのであった。

『……ッッ! し、し、失敬ッ!』

 と、たった今目が覚めたように、焦り捲る姿が滑稽で、オレは吹き出しそうになった。

 

(ちょっ……なにアレ! なんですか、あの女は! もう見てらんないッ!)

(シッ、兄さん、大声出さないで! いくら高級ホテルって言っても、壁一枚隔ててるだけなんだからね!)

(だって、もぉ……なんですか、ホントッ!あの女は! どーせ、俺には乳はございませんよ、コノヤロー! 洗濯板ですよ、コンチキショー!)

(兄さんは男なんだからあたりまえでしょ)

(あーもー、クヤシー! 俺が女だったら、あんな眉毛女よりずっとずっと可愛いのに! 金髪で、ふわふわしてて、クラウドじゃなくてクリスティーヌで……ねぇ、ちょっ……セフィ、聞いてるッ!?)

 叱られてもブツブツと口の中で文句を言うクラウド。

 つきあっておれんと放置し、オレはふたたびモニターに目を戻した。