LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、ジェネシスってさ、どこ住んでんの?」

「ジェネシスって作家さんなの? マンガ家さん?小説家さん?」

「小さいころの兄さんってどんな人だったの?」

「セフィロスって昔から、あんなふうに自分勝手でわがままだったの?」

 

「あー、ほらほら。カダージュもロッズも。あんまり質問攻めにすると、ジェネシスが疲れちゃうだろ」

 キッチンから顔をのぞかせて注意をするヤズー。器用な彼は料理の手を休めずにそんな芸当ができる。私などは一度にひとつのことしかできないから、今は自分の仕事に集中するだけだ。

 今日はキノコのリゾットに、舌平目のムニエル、生ハムとサーモンのマリネにグリーンサラダ、マッシュポテト、それから、何種類かのカナッペを。

 彼の口に合うといいのだが……せっかく夕食に誘ったものの、満足するものを作れなかったら……などと、不安になってしまう。

 きっとジェネシスは美食家なのだと思うのだ。

 なんというか……彼は私などとは違って、すべてに置いて洗練された雰囲気をもつ。

 姿形から、服装、立ち居振る舞いに至るまで、「一流」という印象があるのだ。そういう意味合いではセフィロスも同類かと思うのだが、彼は適度に柄悪く振る舞うことができる人だし、実際、人当たりなどはジェネシスとは雲泥の差なのだ。

 一応、セフィロスは、私の作ったものを、それなりに「美味い」と食べてくれるのだが……

 

「どうしたの、ヴィンセント?」 

 傍らでサラダの準備を進めているヤズーが、声を掛けてきた。またもや私はあれこれと考え込み、惚けていたのだろう。

「え……あ、い、いや……その…… 料理が……ジェネシスの口に合えばいいなと思って」

「やっだァ、何言ってるのさ、ヴィンセント」

 カラカラと上機嫌でヤズーが笑った。

「ジェネシスにしてみれば、貴方と一緒に食事が出来るだけでも大満足でしょ」

「そ、そんな……」

「あー、でも、ちょっとヤバイかもね」

 トーンを落として言葉を続ける。

「え? な、なにが……?」

「だってさァ、ただでさえ、ヴィンセントにベタ惚れなんだよ、彼。これで料理の腕前まで最高なんてことがバレちゃったらさァ〜。火に油を注ぐ結果になるかも……」

「ま、まさか……そんなことは…… た、たぶん、彼の特殊な好意は、一時的な気の迷いだろう。あれくらいの年代の青年にありがちな……」

 危うく調味料のフタを取り落としそうになり、慌ててキッチンテーブルに戻した。

「あーあー、ジジイぶりっこしても無駄だと思うけどねェ。兄さんだって、ジェネシスより年下だけど、ヴィンセント命じゃない」

「ヤ、ヤズー……」

「そのとーりッ!」

 誰でもない者の声が、背後から飛んできて、私は文字通り跳び上がりそうになってしまった。

 

 

 

 

 

 

「うわっ、兄さん。びっくりしたァ。おかえりぃ」

「ク、クラウドだったのか…… お、脅かさないでくれ」

 私は胸元を押さえて苦情を申し立てた。だが、彼はバラ色の頬を膨らませたままで、いつもの「ただいまのキス」さえする余裕がなかったようであった。

「おい、ちょっとヤズー!」

「ハイハイ。もうすぐ晩ご飯だよ。ちょうどいいタイミングだね、兄さん」

「ちょうどいいタイミングとかじゃないでしょーッ!? なんなの、アレ!? どうして俺たちの敵が居間にいんの!? カダたちと和んでんのさ、ヤズー!?」

 カーッ!と山猫のように牙を剥いてクラウドが怒鳴った。……まったく、どうして彼はすぐにこういう態度に出るのだろうか……

「ちょっと兄さん、その言い方はないんじゃない?別に敵ってわけじゃないでしょ。それに彼はヴィンセントを送ってきてくれたんだから」

「……どういうこと? ヴィンセント、ヤツと一緒にどっか……」

「ち、違うのだ、クラウド。か、買い物に行ったのだが……帰り道に彼が車で……」

「そうそう。ただの偶然」

 ヤズーが上手く調子を合わせてくれる。

「ヴィンセントにひとりで買い物なんか行かせたの!? 俺がいないときはヤズーかセフィロスが一緒にって約束したじゃん!」

「あー、だから、今日はセフィロスが一緒に行ったんだけど、なんか急用があったみたい」

 殊の外軽い具合でヤズーが口添えしてくれた。さっきはあんなに怒っていたのに……機転の利く性格がうらやましい。

「急用って? 何なんだよ、ヴィンセントより大事なことッ!?」

 ズキン……と心臓が痛んだ。

 彼にとって私よりも『大事なこと』なんていくらでもあるに決まっているではないか……あまりにも欲目で私を見すぎだ、クラウド……

 私の胸の痛みに気づいてくれたのだろう。

「ちょっと兄さん! もういいじゃない」

 とヤズーがクラウドの物言いを止めた。

「だってさ、ヤズー!」

「……いや、クラウド。そもそも、私に護衛などつけること自体がおかしかったのだから……別にジェネシスは悪い人ではないし……友達になれると……思ったし……」

「もう、ヴィンセントってば人がいいんだから! いい?だいたいね、あの人は神羅にいた頃から……」

 

「あ、セフィロス、おかえり〜」

「晩ご飯に間に合ったね〜。ヤズー、セフィロス帰ってきたよ〜」

「やぁ、セフィロス。今夜はお招きに預かりまして……」

 子供たちの声の後に、お客人の声。

 そして、その後、

『どういうつもりだ、テメェは!』

 というセフィロスの怒鳴り声が続いたのであった……