LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<27>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「ネ、ネロ……ヴァイスの具合はどうなのだ……?」

 思わずそう訊ねていた。

 すると、ネロは鼻白んだように、形の良い眉をひょいと持ち上げた。見慣れた彼の仕草だった。

「ふふ、相変わらずですね、可愛い人。この状況の中で他人の心配ですか?」

「…………」

「ごらんの通りですよ。ああして普通に立って、外出できるようになっただけでもマシかもしれません。残念ながらまだ会話はできませんが、僕の言うことは聞いてくれます」

「そう……か」

「……人のことを話している場合ではないのじゃありませんか、ヴィンセント・ヴァレンタイン」

 苦笑しつつそう言われて、私は意識を現実に引き戻した。貧血など起こしている場合で

はないのだ。

 そう……なによりもまず、確認せねばならないことがある。

 

「……ジェ、ジェネシス」

 私は背後に立ち尽くしている長身の彼に向かい合った。顔だけを向けたのではなく、身体ごと、正面に向かい合い、まっすぐに彼の瞳を見つめる。

「ジェネシス……君は……」

 訊くのが怖くて言い淀んでしまう。自分の口唇が細かく震えているのに気づき、心底おのれを情けないと感じた。

 

「君は……最初からこのつもりで……?」

「ヴィンセント……」

「……君が私を誘ってくれたのは……ネロに引き渡すために……? そうなのか?」

「…………」

 ジェネシスの柳眉が痛ましげにゆがめられる。

 それは決して「してやったり」といったような作戦の成功を喜ぶ様子には見えなかった。いや、演技だと言われてしまえば、どうにもしようがないのだが。

「……ジェネシス……?」

「ヴィンセント。……さっき、言ったよね」

「え……?」

「最初から……わかっていたんだと思う。俺の為すべきことは……」

「……ジェネシス?」

 ふたたび口を開こうとしたとき、私は肩を掴まれ、ぐいと彼の後ろにひきこまれた。私を守るように前に立ち、ジェネシスは真正面からネロに相対した。

 

 

 

 

 

 

「ネロ……すまないね。どうやら、おまえの役に立つことはできそうにない」

「…………」

「ヴィンセントをこの場所から力づくで連れ出すのは無理だよ、ネロ。」

 静かな……いっそ穏やかとさえ言える声音で、ジェネシスはささやいた。

「ジェネシス。ヴィンセントのエンシェントマテリアが必要なのです」

「おまえの気持ちはわかる。だが……」

「ヴァイス兄さんには、どうしてもそれが必要なのですよ……!」

「……すまない、ネロ」

 ジェネシスは低くつぶやいた。背後にかばわれていた私には、彼の表情を見取ることはできなかったが、悲痛なささやきを耳にしただけで、どれほど彼が苦渋の選択をしているのかは理解できた。

「……あのとき、おまえたちに救われていなければ、俺は今、ここにこうして立っていることはなかっただろう。そのまま朽ちて土に埋もれて……」

「ええ、そうです。そのとおりです! 僕たちは貴方の同胞だ、ジェネシス。貴方は我々の祖……僕らは貴方を救うことに何の迷いもありませんでした」

 ジェネシスの言葉に覆い被せるように声を重ねるネロ。

 ジェネシスがネロたちの同胞……? ネロたちに命を救われた……?

 部外者の私にはまるきり話が見えない。

 だが、重要な事実だけは理解できる。何かの事情でジェネシスが生死の境を彷徨っていたとき、ネロやヴァイスが彼を救ったのだということ……

 そして、ジェネシスが彼らの同胞……これについては意味がわからないが、何か深い因縁があるのだろう。

 

「ネロ……おまえたちには感謝している。俺を救ってくれたおまえが苦しんでいるのなら、手を貸してやれればと……そう思ってきた」

「…………」

「……だが……」

「『だが』? なんです? ヴィンセントを、目の前にしたら考えが変わったとでも?」

 冷静なネロの声音が、怒りを孕んで鋭くとがった。

「……ジェ……ジェネシス……」

 会話に分け入るどころか、彼らのつながりについてさえもまともに知らない…… そんな私にできることなど何もなかった。ただ、こみ上げてくる不安が、私にジェネシスの名を呼ばせていた。

「ジェネシス……あの……」

 ジェネシスは返事をしなかったが、「大丈夫だ」というように、そっと背後の私に触れた。その仕草には私を何とか宥めようという気持ちと、自分の後ろから出るなと心配してくれているようにも感じた。