〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「救護兵! 負傷者をすぐに移動させろッ!」

「地盤が悪い部分があるぞ、気をつけろよ」

「野営の場所だが……」

「この辺りはまずいな。夜行性のモンスターがあらわれる危険性がある。もう少し見通しの良いところのほうがいいだろう」

「よし、数メートルのところに、平地があったろう。あそこと分散させて……」

「今日はこれ以上、追跡するのは危険だ」

 

 

「セフィロス……まずくないか? 先発隊と連絡が取れなくなって一時間以上経つ。負傷者も増えているし、深追いは危険だ」

 ザックスがセフィロスに耳打ちした。

「……時間がない。夜行性モンスターか……厄介なことになったな」

 と、セフィロス。

「……これ以上、今日は無理だ。先発隊の状況は気になるがな」

「…………」

「陽が落ちれば、むしろ連中にとっては好条件になる、セフィロス」

「……わかっている」

 セフィロスは前に広がる暗闇を見つめつつ、慎重に頷いた。

 

 見習い兵士のおれなど、救護の人たちの手伝いをするくらいしかできることはない。もちろん、最前線ではなく後方支援の部隊だ。

 前線のセフィロスたち、ソルジャー部隊の人たちに、後方支援の布陣を仰ぐためにやってきたのだけど、緊迫した空気が痛いようだった。

 

 セフィロスは、こんな状況でも、端然としていて、伝令としてやってきたおれを安心させるように誉めてくれた。

 そんなセフィロスの前では、精一杯任務に励んでいる態度を保っていたが……でも、やっぱり怖くて……

 気を抜くと、両足がガタガタと震える。

 修習生から見習い兵になって、まだ間もないが、何度かこうした形で現地へ赴くことがあった。だが、これまでのは調査とか、事故現場の後かたづけとか、そういったものだったので、人の死ぬところや、血だらけの仲間の姿など、見ることはなかったのだ。

 

 だが、今回は違う。

 セフィロスの指揮でやってきたのは、危険区域指定の場所であった。

 数日前、本社から調査に派遣された調査団の消息が途切れたのだ。本部も何度か交信をすべく、さまざまな手段を試みたが、どれも不発に終わった。

 そこでおれたちに、区域調査と一団の捜索、および救助が命じられたのであった。

 

 

 

 

 

 

「クラウド、大丈夫か?」

「あ……ザックス。う、うん、平気。それより、抜けてきちゃっていいの」

「気にするな、すぐ戻る。……クラウド、顔色が悪いぞ。一段落したら、早めに休んだ方がいい」

 セフィロスの片腕として活躍しているザックスだ。

 彼は寮で同室のソルジャーで、でも全然偉ぶった態度をとるヤツじゃなくて、まるで本物の兄さんのようにおれを気に掛けてくれている。

「……うん、ありがと、だいじょうぶ。でも、おれ、ザックスとセフィロスのほうが心配だよ……」

「仲間が傷つくの……見るのはつらいよな」

 おれの心を読み取ったように、ザックスが低くささやいた。

「ザックス……」

「俺も最初はたまんなかったよ。見習い兵から一般兵になり立ての頃、ゲリラの鎮圧任務に、支援部隊として同行したんだけどよ……もう、ホント……キツかった」

「うん……」

「最前線のソルジャーもしんどいけど、後ろで支援すんのも、想像以上につらいんだよな。特に俺みたいに、血の気の多いヤツにしてみりゃ、怪我している仲間を助けに行くこともさせてもらえずに、陣で待ってるってほうがキツい」

「…………」

「……おまえがあのときの俺と、同じ気持ちでいるだろうと想像すると、たまらなくなっちまって……」

「ザックス……」

「クラウド、俺もセフィロスもいざとなったら、単身でも突撃せざるを得ないかもしれない。敵のモンスターもどんなヤツかわからないからな。ぶっちゃけ不安はあるけどよ」

「ザックス……そんな……!」

「だがな、ちゃんとおまえの居る『ここ』へ戻ってくるから。俺も、もちろんセフィロスもだ。だから、待っていてくれ。無茶をせず、与えられた任務をきちんと果たして」

 ザックスはおれの両の肩に手を置くと、噛んで含めるようにそう言った。

 

 なんだよ、ザックス……そんな話して……かえって不安になるよ。

 セフィやザックスが、これからどんな危険な目に遭うのかと……心配になっちゃうじゃないか。

 セフィもザックスもソルジャーなんだから。

 神羅の誇る、超最高級の傭兵部隊なのだから……ただの見習い兵である、おれなんかよりずっとずっと強いのだ。おれみたいな無力な下っ端が、彼らの身を案じるより、自分自身の任務をしっかり果たすことを考えるべきなんだ。

 セフィロスだって、きっとそう思っている。

 おれはおれにできることを精一杯やって、せめてセフィやザックスの足を引っ張らないようにしなくちゃ。もし擦り傷でも作って戻ってきたなら、ちゃんと消毒して包帯を巻いてあげよう。

 ドクドクと高鳴る心臓のあたりを、ぎゅっと手で押さえ、おれは作業に戻った。