In the middle of summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二週間が経つ……

 周囲の心配をよそに、相変わらず事態の進展がない。

 

 私は、『私』のみじめな魂が起居するには、立派すぎる器を持て余していた。

 

 セフィロスの肉体は、本当に美しい。

 

 癖のない長い銀の髪……しっかりとした骨格に、無駄なくしなやかな筋肉がついている。  腕も脚もとても長いのだが、ピンと張りつめた線の強さがあり、それが男性的な美しさを強調しているのだと思う。

 

 私は、風呂から上がり、髪を丁寧にタオルで押し包んだ。

 そして身体の水気をそっと拭い、彼の身の丈にあった、キングサイズのバスローブを身に纏う。鏡に映った彼の身体をみると、以前より少しだけやつれたような気がする。

 もちろん、それは私のせいだろう。

 セフィロスの肉体とはいっても、好みの食べ物や食事の分量は、中身の私の嗜好になってしまう。それでも以前よりはきちんと食べるよう心がけているつもりだが、やはり普段の彼の食事量には到底及ばないのだろう。

  

「……服を持って入れば良かった」

 私はつぶやいた。

 バスルームと私の部屋は少し離れている。きちんと『セフィロス』の服の用意はしてあるが、部屋に置きっぱなしだ。

 私は、廊下に人の姿がないのを確認すると、早足で自室に戻り、夜着に着替えた。第一ボタンまできちんと嵌め、その上から丈の長いガウンを羽織ると、肌の部分はほとんど見えなくなる。

 いつもセフィロスは素肌にガウン一枚でいて、寝るときは、何も身につけないと言っていたが、さすがに私はそういうわけにはいかなかった。

 

 このまま、部屋で時間を過ごしていたい気もするのだが、それではクラウドの側にいられる時間がほとんどなくなってしまう。彼が仕事から帰ってくる時間は早くても夕方……場合によっては夜の8時を回ることもある。

 特に最近は、いろいろ調べものをしてくるせいか、夕食の時間にいないことも多い。

 

 この日もそうだったようだ。

 帰ってきたのは21時を過ぎたらしい。私が風呂に入っている時に、バイクの音が聞こえたのだ。

 

 私は髪を乾かし、きちんと櫛を入れ、身だしなみを整えると、居間へ向かった。

 

 クラウドはダイニングで食事を取っているところだった。ヤズーが給仕をしてくれている。

 ソファには私の姿でセフィロスが横になり、絨毯の上には腹這いになってTVを見ているカダージュとロッズ。

 到底、仲良し同士とはいえないこの家の住人だが、不思議と居間に集まるのだ。

 

 私は、この現象は、クラウドの人徳なのだろうと思っている。

 パーティを組んでいたときから、そう感じていた。

 

 彼には、不思議と人を引きつける魅力があるのだ。

 そう考えると、この私も彼の引き寄せられたひとりということになるのだろう。

 もっとも、最初はこんな関係になるとは思っていなかったが。

 

「……おかえり、クラウド」

 私は、できるだけ、明るい声でそう言った。もちろん、しょせん私のような人間のすることだから、たいして心地よくは聞こえないだろうが気は心だと思うようにしている。

「あ、ああ、ただいま、セ……ヴィンセント」

「ヤズー、風呂を済ませてきたらどうだ? 後は私がするから」

「そう?……ふふ、それじゃ、お願いしようかな。じゃ、ゴメンね、ヴィンセント」

 そういうと、ヤズーは私の気持ちを見通したように、優しく微笑むと、部屋を出ていった。

 『勝手な居候で迷惑掛けてるのはこっちなんだから』

 ヤズーの決まりセリフだ。

 

 彼には本当に助けられている。もし今のこの状況で、彼が居てくれなかったらどうなっていたことだろう。クラウドには仕事があるし、私は生きることに無能な人間だ。

 ヤズーが、私の身体に気を使いながら、てきぱきと家事をこなし、セフィロスとも上手く関係を保ってくれているからこそ、こんな非常時にさえ、我々は『家族』として機能することができるのだろう。

 

「ヴィンセント……」

 スプーンをいじりながら、申し訳なさそうにクラウドが私を呼んだ。

「ん……?」

「ごめんな、もうちょっとだけ待ってくれ。いろいろ……調べてはいるんだけど……」

「クラウド……そんなに根を詰めないでくれ。おまえの身体の方が心配だ」

 私は言った。

 確かに不自由がないといえば、ウソになるが、今すぐ生死にかかわる問題ではないのだから。セフィロスにすまないとは思うが、自分を責め続けているクラウドのほうが、ずっとずっと心配だ。

「俺は平気だよ。頑丈にできてるし。メシも食ってるし」

「……最近、帰りが遅いだろう?」

「あ……でも、それは……」

 彼があわてて理由を説明しようとする前に、私は言葉を引き取った。

「ああ、わかっている。手を尽くして解決方法を捜してくれているのだろう?」

「う、うん……」

 

「……クラウド」

 私は少し声をあらためて、彼に呼びかけた。

「おまえが私たちを心配してくれるように、私もおまえのことが心配なんだ。自分を責めるな。ひとりですべて解決しようなどと考える必要はない」

 私が噛んで含めるようにそう言うと、クラウドが少し不思議そうに私を眺め、小さく笑った。