〜 詩人の夢想 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 KHセフィロス
 

 

 

 

 男性にしては細く美しい指が、私の肌を滑る。

 乱暴でない所作で、シャツのボタンが外され、一枚きりしか身につけていなかった服がソファベッドの床に落とされた。今朝、ジェネシスに借りたものだ。

 今、彼は何を思って私に触れているのだろう。ほのかに冷たさの伝わる指の感触に、私はぼんやりと考えを巡らせた。

 ずっと『セフィロス』を想っていたと言っていた。少年時代、共に在った仲間である彼を、ジェネシスはいつしか特別な目で見るようになったのだろう。

 だが、私が彼の想う『セフィロス』でないということは、十分わかっているはずだ。

 それなのに、相手にしようという発想を抱くものなのだろうか。

 姿形さえ似ていれば、それでよいというタイプの人間に見えない故、よけいに不可解に感じる。

 ……おまけに、今の想い人はヴィンセント・ヴァレンタインだという。

 なかなか趣味のよいことだが、私とあの青年に似通ったところはあるまい。むしろ、外見的特徴も、その清らかな心根も、この私とは真逆に位置する人物だ。

 

 ぼんやりとそんなことを考えているうちに、髪を梳かれ口唇が重ねられた。

「……どうかした?」

 やさしい口調で訊ねられ、彼から目線を反らせた。

「いや……別に」

「心ここにあらずといった雰囲気だったよ」

「……おまえのことを考えていた」

 そう答えてやると、素直に信じたのか否か、彼はそれ以上訊ねては来なかった。

 耳朶を噛み、首筋をなめらかな唇が滑る。

 次第に火照ってくる身体をもてあまし、私は双眸を綴じ合わせた。

 久しく他人とこのような交わりをもつことがなかった。思えばクラウドが手元にいなければ、行為に及ぶ相手がいないのだ。

 今、あれはホロウバスティオンの勇者の元に在る。

 それゆえ、こうしたシチュエーションが久方ぶりに感じるのだ。

 我ながら狭い範囲だと苦笑が漏れる。

 もともと私は性的に淡泊なのかもしれない。クラウドへの思いは、ある意味行為を伴わずとも成立するのだ。だが、相手と深く知り合うにはこれが一番手っ取り早い。

 また快楽と苦痛が伴う行為ゆえ、ことさら受け身側にとっては中毒性がある。特殊な行為を強いれば、それを性癖にしてやることも可能だ。

 別の男に触れられながら、私はクラウドのことを思い起こしていた。

 

 

 

 

 

 

 私の存在を憎み、恐れつつも、立ち向かってくる金の髪の青年。

 いったいいつから、こんなにも歪んだ形になってしまったのか。

 いや……そうではない。

 歪ませたのはこの私だ。

 もともと、あの子の中に特殊な因子が備わっていたのだとしても、それを育み発芽させたのは、私の仕打ち以外の何者でもない。

 恐ろしい苦痛も、気を失うほどの快楽も、すべて私が教えてやったのだ。

 だから、クラウドは、私の姿に恐怖し、嫌悪を感じようとも、最後は必ず手元に帰ってきた。あの子にしてみれば、それはもうどうしようもないことだったのだろう。

『オレには……アンタしかいない。セフィロス以外じゃ、もうダメだから』

 震える声で、そう言っていたのはいつのことだっただろう。

 

 ……あの子が私の元を去って、数ヶ月。

 ホロウバスティオンに住む、愚直で生真面目なレオンという青年に保護されてから、半年には満たない時が経ったのだ。

 あれから一度もクラウドには会っていない。なぜかまとわりついてくるのは、保護者の立場であるスコール・レオンハートという青年だ。

 彼の父親から受け取った携帯電話に、親子共々しつこいほどにメールとやらを送ってくる。

 そればかりでなく、レオンは私を捜し回るような真似をするのだ。

 まったく理解しがたい男で、いささか……心乱されることもある。平気な顔で、人の領域に足を突っ込んでくるのだから。

 

「あ……ッ」

 脇腹をついばむように口づけられ、思わず声が漏れた。

 他の事を考えていられるのも、そろそろ限界かもしれない。さきほどの小説の影響も手伝ってか、身体が刺激に素直に反応してしまう。

 ずっと触れられなかった、胸の突起を軽く引っかけられ、ゾクゾクと背が震えた。

 私は身じろぎすることで、触れ合う相手に、肉体の高まりを伝えた。