〜 詩人の夢想 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 KHセフィロス
 

 

 

 

 

「ちょっとゴメンね。腰浮かせて」

 耳元でささやかれて不覚にも、鼓動が高まった。

 ジェネシスの声は低いのだが、耳触りのよい甘くてやわらかな響きを持っている。

 私は素直に協力して、下肢に纏った衣服が脱がされるのを、人ごとのように感じていた。

 するとまたもやクスッと笑われ、さすがに気になった。

「……なんだ?」

 腰骨のあたりを甘噛みしていたジェネシスに、私は低く訊ねた。

「……フフ、昨日から思っていたんだけどね。君は恥ずかしがるポイントが、少し人とズレてるよね」

「……? なんのことだ?」

 本当にわからなくて、再び言葉を返した。

「だってさ。こうして服を脱がされるのはそれほど恥ずかしそうに見えないし……」

「……おまえだとて脱いでいるだろう」

「いや、昨夜、風呂から出てきたときも、タオル一枚ひっかけて平然としていたよね。バスケットにローブを入れておいたのに」

「……暑かったからだ」

 さも可笑しそうにそう言われ、私は憮然として応えた。

「そのくせ、道のぬかるみで手を差し出されたりするのに抵抗があるみたいだし」

「……手をつなぐなど……子どもではあるまいし」

「あっはっはっ。なんだかね、君のそういうところが可笑しくて……ひどく可愛らしく感じるんだよ」

「…………」

「まぁ、身体については……見られても恥ずかしくはないのかもね。君はどこもかしこもとても綺麗だ」

 手の平が膝を割り、やわらかな唇の感触が、足の付け根を辿った。

「ん……」

 きゅっと強く吸われ、小さな呻きが口の端からこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 ジェネシスはなかなかに意地が悪い。

 薄明かりの差し込む部屋の中、私の興奮はもう十分に見て取れるほどであろうに、いつまでも焦らすように、その部分に触れようとはしなかった。

 だからといって、突き放すような残酷な仕打ちをされるわけではなく、唇と舌はいっそう丹念にこの肉体から、快楽を導き出そうと蠢いた。

「もぅ……いい」

「ん……?」

「もう、十分だろう」

「なにが?」

「……おまえはずいぶんと性格の悪い男だ」

 弾む吐息を押し殺し、私はそう罵った。

「ああ、ハハ、ごめんよ。でも別に意地悪をしているわけではなくて…… その、君はそちら側の経験はあまりないのだろう?」

「…………」

「出させてあげるだけなら簡単だけど、こうして触れ合っていると、できれば最後までしたいかな、なんて。俺ももう大分余裕ないし」

「……確かに……あまり経験はないな」

「そうだよね。君ほど綺麗で……強くて賢くて。何でも持っているような人を手に入れようとするのは、相当勇気がないと。一笑に付されて終わりだよね。ハハ、それでも斬られないだけマシかな」

「…………」

 余裕がないとはいいながらも、十分冷静に見えるジェネシスだ。少々面白くはなかったが、敢えてそれ以上、抗議するような真似はしなかった。

 興奮を抑えるために、ふっと何かを考えようと試みた。だが、ぼんやりと頭に浮かんだのは、クラウドの保護者を自任している、ホロウバスティオンの愚直な青年の面差しだった。

 私はそれをすぐさま打ち消し、ジェネシスの頭をやや乱暴に引き寄せた。

 早く続きをして欲しいと、かまわないと、彼の耳元でそうねだったのだ。