Radiant Garden
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<31>
 
 セフィロス
 

 

 

「よし、作業終了だな。もともとの目的は、この城に13機関の手がかりがあるか捜すことだ。まだ見ていない部屋や、中庭もあるだろう。とにかく今日はこの城を調べ尽くすんだ」

 オレは連中にそう告げて、さっさと立ち上がる。

 このコンピュータールームはなかなか大した物だが、ゼムナス……といったか、敵のボスがこんなわかりやすい場所に手かがりを残すとは思えない。

 それよりも、アンセムの私室とやらに興味があった。

 オレはアンセム……いや、実際はゼムナスであったわけだが、そいつのプライベートルームを見てみたかった。なんせ、オレたちは野郎のツラも知らないのだ。

 

「アンセムの私室は、この部屋の向かいだ。行ってみるか」

 レオンはバックアップを終えたハードディスクを、メインPCから取り外し、きちんと保護フィルターをかけて胸ポケットに仕舞った。

「私室なんでしょう? 鍵がかかってるんじゃない?」

 とジェネシスが訊ねる。

「いや、すべての部屋の合い鍵を作ってある。一番面倒だったのはこのコンピューター室だ。アンセムの私室の鍵はこれだ」

 レオンは尻ポケットのキーホルダーを取り上げた。すべての部屋の鍵を作ったといっていたが、さすがにそれらを常に持ち歩いているわけではなかろう。

 主要なものだけ、いつでも使えるようにこうして携帯しているのだ。

 

 レオンはメインCPのセキュリティロックを再度確認すると、俺たち皆に部屋を出るように促した。この部屋だけは何重にも複雑にロックされているということだろう。

 

「セフィロス、私室の鍵だ」

 せっかちなオレに先を促されるのにうんざりしたのか、レオンはホルダーごと放り投げた。几帳面なこの男らしく、ひとつひとつにきちんと名前が書いてある。

「こいつだな……アンセムの私室……」

 オレはさっさとそいつを目的の扉に突っ込み、ドアを開け放った。

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、趣味は悪くないねぇ」

 部屋に入るなり、ジェネシスがそうつぶやいた。ロココ趣味とでもいうのだろうか。猫足のテーブルに、瀟洒な形状をした椅子が置いてある。暖炉にも細やかな装飾がなされており、わざとその部分を強調するような文様が彫り込まれていた。

 書棚も色気のない棚ではなく、大理石を使ったもので、むしろ中に収まっている書物のほうが無骨に感じられるものだ。

 

「彼の蔵書は……また、これは色気のない専門書ばかりだねぇ。部屋の雰囲気はなかなか良いのに」

「装飾過多で鬱陶しい」

 と、オレは応えた。

「きっとキングダムハーツとやらの研究に必要な資料なのだろうが……ふぅん……」

 ジェネシスが書棚を丹念に眺めている。

 だが、オレは奥の壁面に、大きく飾られた人物像に引き寄せられた。

 

 浅黒い肌に銀の髪。十分美丈夫で通る青年の肖像画だ。

 レースで縁取られたアスコットタイを締めているせいか、貴族的な雰囲気だ。

「賢者アンセム……いや、ゼムナスだ」

 オレの後ろからリクが言った。

「ゼムナス……」

「ああ。……いや、人間だったころはゼアノートという名で……今は、心を捨ててゼムナスというノーバディとなっている」

「心を捨てて……か。それで、今度は心を創ろうとしているとは滑稽だな」

 皮肉でもなくオレはそう言った。

「そうだな。あなたのいうとおりだ」

 そうつぶやいたリクの声はどこか苦しげに聞こえた。

「フーン。でも、まぁまぁいい男じゃねーか。オレには負けるが。わざわざノーバディなんざにならなくとも、そこそこ人生エンジョイできそうに見えるがな」

「おい、不謹慎だぞ、セフィロス」

 生真面目な声はレオンのものだ。

「ふふっ、この肖像画を見て、そんなふうに言ったのはあなたが初めてだ」

 リクのほうは、オレの漏らした感想がまんざらでもなかったように、楽しそうにそう応えた。