Radiant Garden
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<51>
 
 セフィロス
 

 

 

「……セフィロス、ジェネシスは大丈夫かな」

 階段を駆け上がりながら、オレに声を掛けてきたのはリクだった。

「問題ないだろ。自信のないことなら、最初から請け負ったりはしない」

「だが……ここは忘却の城だ。セフィロスやジェネシスにとっては、この世界自体が不慣れなわけだし、ラクシーヌは……とても残忍だ」

「まぁ、相手が女だからと気を抜かなければ大丈夫だろ」

 オレの物言いがあまりにも投げやりに聞こえたのか、リクが少しだけ不思議そうに聞き返してきた。この少年……っつーか、大人になりかけのガキが、ここまで訊ねてくるのもめずらしいのだ。

「ジェネシスはセフィロスの友人なんだろう? それもとても付き合いの長い……」

「ああ、まぁな」

「大切な人なんじゃないのか?」

「気持ち悪ィ言い方すんな。ただの腐れ縁だ」

「そんなことを言って……」

「だが、まぁ、一応、長い付き合いであることには違いない。やるときにゃやるヤツだ。軍人としての階級もオレと同等だった野郎だからな」

「そ、そうか……」

「今は、あの野郎の心配をするよりも、先に進むことだ」

 そういうと、理解したというように強く頷いた。

 

「くそっ、天井が高いせいか、階段が長いな!」

 前を走るレオンが、苛立たしげに舌打ちする。こいつは囚われの身の『死の大天使』のことを考えているのだろう。というか、それしか考えていないんじゃないかと疑わしくさえある。

「おい、レオン、記憶は大丈夫か?」

 ややのんびりした口調で訊いてやる。

「記憶……? 問題ない、今、すべきことはわかっているのだからな!」

「今朝の朝食のメニューは思い出せるか?」

 そう言うと、

「セフィロス! 遊びじゃないんだぞ!もう時間がないッ、一刻を争うんだ!」

 と、恐れ多くもこのオレ様を怒鳴りつけ、さらに足を速めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、オレたちの目の前にふたたび13機関が立つことになる。

 行く手を阻むのは、赤い髪をした男……ホロウバスティオンにやってきた日に邂逅した炎使いだった。

 オレが口を開く前に、リクが、

「アクセル!」

 と叫んだ。

「よぉ、リク。久しぶりだな」

「アクセル……通してくれ。アンタだって本意じゃないんだろ」

 リクが言う。

「仕方がねーんだよ。オレは機関員だ。オメーとは違ってな」

「アクセル、じゃあ、せめて教えてくれ。『死の大天使』はどこにいる?」

 おそらくもっともレオンが聞き出したかったことを、リクが代わりに訊ねてやった。

「……おまえら、こうして上に昇ってきたんだろ。お察しのとおりだよ」

「実験室か……そうなんだな?」

「…………」

 アクセルの沈黙を是と受け取ったレオンが、いきなり飛び出すと黒服の胸元を掴み上げた。

「実験室……? 実験とは……どういうことだ。彼に何をしているんだ!」

「おいおい、何を気色ばんでんの。なにもあの男はホロウバスティオンの住民というワケじゃ……」

「うるさい、黙れ!いいから早く教えろ!『セフィロス』はどこに居るんだ、彼に何をしようとしているッ!」

「……決まってんだろ」

 胸ぐらを掴み絞める腕を引きはがすと、アクセルはため息混じりに言葉を続けた。

「実験材料だよ。……ノーバディを作ろうとしたが、あの人からはできなかった。科学者連中がいろいろ試してんじゃねーのか」

 吐き出すようにアクセルがつぶやいた。この男がどういう野郎なのかは知らないが、例のサイクスだのとはやや趣が異なることだけはオレにもわかった。

「いろいろ試して……? 貴様らはいったい……!」

「落ち着け、レオン。こいつを締め上げてもそれ以上はわかんねーんだろ。どう見ても科学者の一人には見えねーしな」

 そう言いながら、オレは刀を抜いた。

「お、てめぇ……アクセルだったか。ここで立ちふさがるなら斬って捨てる。時間もねーことだし、問答無用だ」

「……アンタ、やっぱり来たんだな。リクが一緒なら、ここがどういうところかわかっているくせに」

「オレは自分のしたいようにしているだけだ」

「もうひとりの紅コートはどうした」

「……まだ、追いついてこないところを見ると、女相手に手間取っているんだろ。ったく情けねェ野郎だ」

「……ラクシーヌじゃ、紅コートにゃ勝てねぇな」

 ぼそりとアクセルがつぶやいた。

「たりめーだろ。一応、あんなんでもオレの連れだ」

 そう言い返すと、アクセルはフッと笑った。