〜 Restoration<修復> 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 私は夜着に引っかけたカーディガンを脱ぎ、もう一度バスルームに足を運んだ。

 湯に浸かることが目的ではないので、シャワーだけを手早く浴びる。

 ……最初はきちんとしたスーツにしようと考えたが……だが、私はセフィロスやヤズーと違って、センスはからきしだし、無理に頑張っても失笑を浴びるだけと思い返し、普段着に着替えた。

 普段着とは言っても、セフィロスが選んでくれたものだから、私に似合っているのであろうし、それはとても洒落ていて、値段も自分ならばまず日常着には出さないような金額であったのだ。

「みゅ〜ん、みゅ〜ん」

 私は足元から聞こえた呼び声に、踵を返した。

 子猫のヴィンが私の後ろにぴったりとくっついている。

「ヴィン……」

「みゅ〜……みゅ〜……」

 小首を傾げて鳴く、私と同じ名をした子猫。

「……おまえも寂しいのか?」

 小さな身体を抱き上げ、声を掛けてやる。

 この子はまだ幼いので、夜、食事をした後に温かなミルクを飲ませるとすぐに眠り込んでしまうのだ。そのままずっと寝ていて、起き出してくるのは朝なのに……

「にゅ〜……にゅ〜……」

「ヴィンはセフィロスと仲良しだったものな……」

「みゅ〜ん……」

「ん……そうか。そうだな……私も寂しくて寂しくて、もう堪えることができそうにないんだ」

 掠れた声でつぶやいた私を、なぐさめるように子猫が見上げてきた。

「帰ってきてくれとは言わないから……元気な姿だけでも見たくて……」

「みゅ〜……」

「だから、な。皆には迷惑を掛けないから……」

 そっとひとりで外出しようとしていた理由を、子猫相手に聞いてもらった。

「もしかしたら、クラブに居るかもしれないから……姿だけでも見られれば安心できるから……な? ヴィン……?」

「にゅーん!にゅーん! にゅうにゅう!!」

 小さな黒猫は、私の腕に足を突っ張るようにして、鳴き声を上げた。

「にゅ〜ん!みゃぅぅぅ〜ッ!」

「……おまえもセフィロスに会いたいのか? ……そうか……そうだな」

 小さな顔を、全部口にしてしまうように、必死に鳴く子猫。

 この子が何を言っているのか、私は勝手に解釈していた。いや、私と同じ名をもつ黒猫がそう望んでいるのだと、本当にそう感じたのだ。

「そうか、そうか……そうだな。セフィロスのことを好きな者同士、一緒に行こうか……? どうせ、店の中になど入っていく勇気はないし…… でも、ずっと待っていれば、閉店の時に出てくるかもしれないものな……」

「みゅうみゅう!!」

「ああ、でも、セフィロスは店には来ていないのかもしれないぞ? もし会えなくても……仕方がないと思わなくてはいけない」

 自分に向かって言うはずの台詞を、子猫に言って聞かせた。

「みゅー!」

「うん……でも、ふたりなら、少しはつらくないかもな」

「にゅんにゅん!」 

「そうだな……ふたりなら怖くないから……」 

 そんなふうに自らを元気付け、私は子猫に頷き返した。

 キャビネットから車のキーを取り出そうとして、躊躇する。

 エンジンを掛ければ、聡いヤズーはすぐに気付くであろうし……いや、車で出掛けたということではなく、私が何のために外出したかと判ってしまうということだ。

 ここはイーストエリアの東端部なので、タクシーの拾える通りまでは少し歩かねばならない。いや、走れば五分程度だと考え、私は思い切って真夜中の外出を決行した。

  

 外に出ると、思ったよりも気温が低いようだった。

 コスタ・デル・ソルは昼と夜の温度差が激しいのだ。もっともセフィロスやクラウドなどは、ノースリーブで通しているようだが、一枚何かを羽織ってきた方が良かったかも知れない。

 ヴィンは懐に抱えているから大丈夫だろう。

 むしろ、無邪気な彼女は、深夜の外出を楽しんでいるように、

「にゅんにゅん!」

 と鳴いていた。

 小走りに大通りまで移動し、タクシーを掴まえる。

 

 ……行き先はノースエリアの繁華街……

 ……そう。

 彼の経営する、高級クラブにだ。