セフィロス様の生涯で最悪な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

  

「すまない、ジェネシス……迷惑を掛けてしまって……本当にまったくもう……セフィロスときたら……」

 耳元でヴィンセントの声が聞こえる。

「なんで、この人、こんなに飲んでるのよ。わざわざふたりでお酒飲みに出掛けるってのが、なんだか怪しいよね。お酒を過ごすような話でもあったの?」

 こちらのつんけんした物言いは、イロケムシだ。

「ヤ、ヤズー、ジェネシスはわざわざ送ってくれたのだから。本当に迷惑を掛けてすまなかった」

「いいんだよ。一緒に飲んだ俺の責任もあるからね。帰り際に、医者のような人に薬をもらったんだ。しばらくすれば効き目があらわれると思うよ」

 軽い調子で請け負っているのは、ジェネシスだ。

 そういや、同じカウンターで酒を飲んでいたジジイがいたな。

 いや、ジジイがどうかははっきりしなかったが、口元までマフラーで隠していたので、妙に老人くさく感じたのだ。

 そいつが親切にも、酔い覚ましだと言って、古ぼけたカバンからカプセル剤をくれたっけ。

 そいつがそろそろ効いてくるなら、明日の朝は大丈夫だと思うのだが……

 

「さて、後の面倒は私たちが見るから、ジェネシスは今夜は……?ああ、そうか、気を使わずにそのつもりできてくれてもよかったのに。わかった……おやすみ、ジェネシス。帰り道に気をつけて……」

「おやすみなさい、ジェネシス。ああ、その大荷物は俺が受け取るよ」

 ドサッと軽い衝撃が身体を伝わる。どうやら、オレはジェネシスからヤズーに移動させられたようだ。

 

 ……思いの外、深酒をしてしまった。

 飲みに行ったのが、いきつけのいつもの店……ということと、ジェネシスの話が、酒の肴になる程度にはおもしろかったのだ。

 空間のよじれが目には見えなくとも、どんなふうに感じられる物なのか、また、このコスタ・デル・ソルでの磁場と、ホロウバスティオンではどう違うのか。ホロウバスティオンのある世界が、いかに不安定に感じられるのかなどをくわしく話してくれた。

 オレにとってもなるほどと気付くことが多く、ついついやりすごしてしまったのである。

 機会があれば、また旅に……もっとも、最近帰ってきたばかりなのだから、そうそう出掛けるわけにはいかなかろうが、おもしろそうな場所があれば行ってみたいと思う。

 そんなこんなで、オレは十分満足のいく夜を過ごし、そのままベッドに潜り込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 ……違和感は、翌日の朝であった。

 酒を飲んだ翌日にやってくる、ガンガンと早鐘を打つような頭の痛みはない。帰りがけにもらった薬が想像以上によく効いたらしい。

 シルクハットを深々とかぶり、口元にマフラーをした年齢不詳の怪しい医者かと思ったが、この状態ならば御の字だ。

 いつもの起床時間よりはやや遅めではあるが、それでも具合が良いのはありがたかった。

「さてと……」

 と起き上がったとき、何とも表しがたい違和感に襲われた。

 二日酔いの不快感ではない。

 昨夜は酔っぱらったまま眠り込んだらしいが、服がパジャマに着替えさせられてあった。酒を飲んで遅く帰ったときにはよくあることで、ヴィンセントとイロケムシあたりが、適当に夜着を着せ替えたのだろうくらいにしか思っていなかった。

 しかし、今はなぜか胸元が腫れて、ボタンがはじけ飛んでいるのだ。

 虫にでも刺されたかと考えるが、かゆみや痛みはないのだ。それにしても、ボタンが取れてしまうというのは尋常ではない。

 ああ、いや……それよりなにより、この違和感は……?

 立ち上がったとき、なんとなく身体のバランスがとれない。千鳥足でよろよろと歩いてしまう。酔いなどこれっぽっちも残っていないのにだ。

 不思議な感覚に襲われながら、オレはバスルームを使おうと、夜着を脱いだ。

 ……そして、悟ったのだ。

 この違和感の正体を……!!

 

「うあぁぁぁぁーッ!」

 思わず大声を上げてしまう。

 さすがのオレでもこんなことがあれば……

 

 そう……いつのまにか、この身体が『女のもの』に変化していれば、悲鳴のひとつくらい上げようというものだ。

 

 馬鹿な……!

 そんなバカな!

 

 パジャマを脱いだ下肢にもっとも重要なものが付いて無いではないか!

 男としちゃ、命と同等程度の重要性をもつ、自身の分身……

 おまけに、ボタンの弾けたパジャマは何もおかしいことなどなかったのだ。オレの胸に……いや、正確にはオッパ……いや、いい、よそう。ここでその単語を口にしたら立ち直れなくなりそうだ。

 夜着の胸元は、豊かに盛り上がった両の胸のせいで、弾け飛んだに違いない。

 鏡には到底信じがたい姿が映っている。

 昔、よく眺めたグラビア誌に載っていそうな、ボン・キュッ・ボンな、スタイル抜群の女の姿が……