セフィロス様の生涯で最悪な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 セフィロス
 

  

「ちょっとぉ、セフィロス?ひとりでなに大声出してんの?起きてるなら、朝ご飯食べちゃってよ」

 あの面倒くさそうな声は……!

 やばい、バスローブだ、バスローブ!

「セフィロス、聞いてるの?」

 そう言って無遠慮にも、ノックなしで部屋のドアが開いた。間一髪、オレはバスローブにくるまり、この無様な姿を見られるのを避けられた。

 だが、これは隠しておくべきコトじゃない。それくらいオレにもわかる。

 むしろ、積極的に相談すべき事柄だ。きっとまたこの家の『不思議』が起こったに違いないのだから。

 この家に来てからは、他人の人格が入れ替わったり、ヴィンセントに至っては猫にまでなった始末だ。童話の世界にダイヴしたこともあるし、数え切れないくらい不思議な出来事に遭遇した。

 だが、ここしばらくホロウバスティオンへの旅だの何だので、そういった現象を忘れていた。

 だが、このクソとんでもない出来事はなんだというのだろう。

 この手の『不思議』は初めてだ。まさか、このオレが女の身体になるとは……

 

「なんだ、居るじゃない。ああ、シャワー浴びてたのか」

 ずかずかとイロケムシが部屋に入ってくる。

 どうする?

 いや、どうするもこうするも、まずは相談するしかない。

 こいつは毒虫野郎だが、性格がひねくれている分、頭の回転が早いのだ。いずれ、この家の連中に知られるのはいかんともしがたいが、まずはこの男に話した方が後のことを考えるとスムーズにいくだろう。

「浴び終わったんなら、さっさと朝ご飯食べてよね、カダたちなんて、もう海に行っちゃったよ。ええと、洗濯物は……」

「おい……」

「この辺、洗っちゃったほうがいいかな。適当にもっていくからね」

「おい、イロケムシ……」

「……なにしてるの、さっきからそんな格好で」

 ようやく違和感に気づいたのか、イロケムシは不思議そうにオレを見た。それはそうだろう。特大サイズのバスローブをみっちり身につけて、縮こまっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

「困ったことが起きた……」

 オレは端的に伝えた。いや、端的すぎてこれでは何も伝わらないだろう。

「は……?何の話」

 とイロケムシがけげんそうな面持ちになる。

「その……女に……」

「え?」

「だから、その……女になってた」

「女……?」

「朝起きたら……女の身体に……」

「あの……だれが……?」

 ここにきて察しのいいイロケムシは気付いたのだろう。徐々に声音が低く、ゆっくりになる。

「決まってんだろう!今、心の底から困っているのはオレだ!なぜか、今朝、目覚めたら女になってた」

「え……えぇぇぇぇッ!?」

 ヤズーのヤツもさきほどのオレに負けないほどの大声を上げたが、慌てて口を閉じた。今日は日曜だから兄さんもいるし、ダイニングではヴィンセントがセフィロスの食事の支度をして待っているだろう。

「ほ、本当?」

「貴様にそんなつまらんウソをついてどうなる!ああ、クソ、うそだったら、どれほどマシか……」

「じゃ、そのバスローブの下……」

 おそるおそると言った様子で、目線を下にするイロケムシだ。

 うっ……なんだか、ひどく嫌な気分になる。男にじろじろ見られる美女というのはこんな気分なのだろうか。

 いや、だが、オレは美女じゃねー。英雄だ。

「そうだ、女の身体になってる……クソ、どうすればいい?」

「し、信じられないんだけど……目線はいつもと変わっていないから、身長に影響はないみたいだし。声も普段のとおりじゃない」

「信じられない……?ああ、オレも信じたくねーよ。だが、事実だ」

「……事実」

「…………」

「じゃ、とりあえず、見せて」

 あろうことか、イロケムシは率直な希望を述べてきた。オレの言葉だけでは信じがたいというのだ。

「見せてって……テメェなぁ!いいか、オレはかまわんが、女の身体なんだぞ?なんだか、女に申し訳ねーだろうが」

「だからその女性の身体が、今のセフィロスなんでしょ?それを見せてって言ってんの。ちょっと……本当に信じがたいよ」

 そこまで言われては仕方がない。別に必死に隠すモンでもないし。

 オレは仁王立ちになると、ローブの前をがばりとはだけてやったのだ。