セフィロス様の生涯で最悪な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 セフィロス
 

  

「きゃあぁ〜」

 イロケムシが間延びした悲鳴を上げる。

「おい、もういいだろ!」

 そう言ってオレはさっさと前をとじ合わせた。男の姿ならば、素っ裸で歩いても何の痛痒もないのに、あちこちでっぱった女の肉体というのは何とも気恥ずかしいのだ。そして、『気恥ずかしく感じている』自分自身が、さらにこっ恥ずかしくてたまらない。

「……見たか」

 オレは低く言った。

「うん……見た」

「これで信じるだろう」

「……っていうか、もろに見ちゃったからねぇ。うわぁ、この手の不思議は初めてだなぁ。いったい何が原因なんだろう」

 はぁ〜と深いため息を吐き、イロケムシが額に手を当てながらつぶやく。

「そんなこと知るもんか。この家の不思議に理由なんかない」

「そう……だよねぇ。そういえば、昨夜の薬がどうとかっていう話は?関係ないの?」

「……それもわからん。だが、いずれにせよ、くれたヤツのことは憶えていないし、たまたま店で側に座った客ってだけだからな」

 マフラーで口元を隠していた、いわくありげな医者の姿を思い出す。いや、『医者』だといったのは、本人の言葉であって、本当なのかどうなのかもわからないことだ。

「そう……え〜と、じゃ、ホロウバスティオンに行ったことは?あの世界って『不思議』が多いんでしょう?」

「だから、それも知らん!まったく心当たりはないんだ」

 いらいらとやや八つ当たり気味にオレはそう叫んだ。

「しっ、大声出すと、ヴィンセントに聞こえちゃうから」

「はぁ〜……どうすりゃいいんだ。オレの分身まで……」

「ピンポイント的に心配してもしかたがないでしょ」

「歩くときに上手くバランスがとれなくて、ずっこけそうになるし……」

「そ、そこはなんとか慣れるしかないよ」

「くそ……いつ元通りになれるんだ」

 そんなことはオレもイロケムシもわからない。だが、つい口をついて出てくる言葉だ。

「まぁ、これまでのことから考えても、ずっとこのままってことはないだろうけど……女性の身体でいる間は、ちょっといろいろ不都合があるだろうね」

「今だって不都合だらけだ!歩きにくいし、胸は邪魔だし……!女はこんなに邪魔っけなもん、いつもくっつけてんのか!」

「……また、無駄にナイスバディだね、セフィロス」

 と、イロケムシはしみじみと宣ったのであった。

 

 

 

 

 

 

「で、とりあえず……どうする?」

 と、訊ねられ、オレは

「なんのことだ?」

 と聞き返した。

「決まっているでしょ。家の人間に隠しておく?さすがにこの体型だと難しいかな。服、合わなくなっちゃってるでしょ」

「ズボンはぶかぶかだな」

「男性と女性の体型で、一番の違いはウエストの位置だからね」

「だが、なんとかベルトでごまかすくらいは……それよりもこの胸が……」

 そうなのだ。

 身体の中心から分身が消え失せたのもショックだったが、目の前にぶよんと出っ張った脂肪のかたまりが邪魔くさくてしかたがない。おまけに、身体を動かしたときに勢いよく揺れて、何とも言い難い感覚に襲われる。不快なのか快感なのか、もう自分でもわからないのだ。

「そうだね……まさか、セフィロスがこんな巨乳の美女になるなんてね。顔とかは変わらないのに。首から下が……もう、『うわぁ』って感じだもんね」

「『うわぁ』ってなんだ」

「いや、童貞くんが見たら、鼻血出して倒れるくらいのインパクトはあるナイスバディだよ……と、それはいいとして!ヴィンセントには話したほうがいいんじゃない?」

 本題だというように、イロケムシは指を突き立ててそう言ってきた。

「それはかまわん。別に隠し立てるようなことじゃないからな。だが……」

「だが、なによ」

「……どうやって説明する?おまえにしたみたいに、前をがばっと開けて見せれば一発かもしれんが」

 言い淀むオレに、イロケムシは、いかにもといったようすで、

「間違いなく、失神するだろうね」

 と、請け合ったのであった。