セフィロス様の生涯で最悪な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

  

「肩と腕の筋肉が薄い……」

 さらしを胸に巻き付けながら、まじまじと観察すると、なんとも女の身体というのは頼りない。とにかくボリュームがあるのはバストだけで、他は男だったときより、一回り……いや、下手をすると二回りほども華奢になっているのだ。

 それでももとの肉体がオレだからこそ、腕力も極端に落ちているわけではないし、腕に力を込めれば、筋がしっかりと浮き出る。

「腰……女の言う、ウエストというのか、ここはまたずいぶんと細いんだな。ったく、合う下が一本もねぇぞ……」

「セフィロス、俺、入るよ」

 オレ様が難儀に格闘しているとき、またもや、不躾に扉を開いたのはイロケムシであった。

「なんだ、今、巻き付け中だ!」

「巻き付け中……ね。わざわざパンツとジンジャーティーを持ってきて上げたのに」

 テーブルに茶器を置くと、ずいとスラックスを何本か差し出す。

「気が利くな。オレのは腰の部分がどうしようもない。ベルトで留めるにしても、一番内側の穴に入れてもまだ余るんだ」

「俺のなら大丈夫なんじゃないかな。ベルトも何本か持ってきたから」

 イロケムシのワードローブを借りるのは、不愉快きわまりなかったが、今回は非常時だ。丈が長めだという、無難そうなアイボリーのジーンズを履いてみると、やはりウエストは余るものの、今度はなんとかベルトで留めることができた。オレにはあまり明るい色は似合わないと思うがこの際、文句を垂れている場合でもないだろう。

 アイボリーのパンツを履き、上にはゆったりとしたモスグリーンのサマーセーターを着てみた。

 さらしで胸も目立たなくなったし、無理に服を引っ張ったりしなければ、なんとかいつものオレに見える……だろう?

 

「うーん、普段着ないカラーだっていうのをさっ引いても、やっぱりなんていうか『繊細』な雰囲気になっちゃうね〜。身長は変わらなくても、どうしても他のパーツが細くなるからなぁ」

「貴様、よくわかるな」

 先ほど鏡の前でさらしを巻いているとき、つくづくそう感じたことを、そっくりそのまま言われて少々驚いた。

「そりゃわかるよ。まぁ、ゆったりしたサマーセーターのおかげで大分ごまかせてるけど。腕や背筋、肩なんかも、女性なら筋肉はつきにくいからね。サイズとしては2サイズくらいはダウンしちゃうんじゃないかな」

「チッ、くそ!まぁ、まだこのとんでもない出来事が、ホロウバスティオンに行っていた時分におこらなかっただけよしとするか」

 口に出してみて、背筋がひやりとする。あの世界で起こったことを思い起こせば起こすほど、女の身体なんかになっていたら、一大事だったと思う。

 レオンだの向こうの世界の『セフィロス』にも、どう見られたことか……いや、それよりなにより、戦闘能力がひどく落ちてしまうことに間違いないのだから、『忘却の城』へなんぞ、乗り込むことはできなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

「ほら、セフィロス、ジンジャーティー、冷めないうちに飲んでってヴィンセントが」

「ヴィンセント?」

「身体が冷えるのって、女の人には本当によくないらしいよ」

「『女の人』などというな、気色悪い」

「ははは、ごめん。うーん、でもやっぱその辺、男の身体とは違うんだから注意しろってことでしょ。あとは……そうね、足。麻の靴下あるでしょう。それでいいから履いてね」

 偉そうにイロケムシがオレに命令した。『ヴィンセントが言った』ということは、無条件で相手に突きつけられるものだと考えているらしい。

「足〜?暑苦しいだろう」

「だめだめ、一見外気は暑くても、身体の内側から冷えてしまうんだってさ。麻の靴下はすっきりしてかえって素足よりも気持ちいいよ」

 と、ヤツ自身も愛用しているブランドのものを差し出してきた。

「ワンサイズ大きいから、セフィロスにも合うでしょう」

 という。準備の良いことだ。

 

 そんなやり取りをしているときであった。

 表にバイクのエンジン音が聞こえた。クラウドが帰ってきたらしい。

「……兄さん、帰ってきたみたいね」

「ああ……やれやれ」

「ま、仕方ないよ。今度は話、俺とヴィンセントでするから、あなたは部屋に居たら?」

 一応、こいつなりの気遣いなのだろう。このまま自室に居ることを勧められたが、引きこもっているのも何となく業腹なのだ。

 オレにはなにひとつ落ち度はないのに、こんなクソろくでもない不思議に囚われたのだから。

 この身体が女の間くらい、せいぜい面倒を起こすなくらいのことは言ってやろうと、オレはイロケムシのあとについて、部屋を出たのであった。