セフィロス様の生涯で最悪な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

  

「やぁ、セフィロス、ヤズー、ごきげんよう」

 そう言ってにこやかに片手を上げたのは、ご存じジェネシスであった。

「なっ……なんだ、テメェ、昨日も来ただろ!今日は何しに……」

「セ、セフィロス……!」

 と、ヴィンセントが小声で注意してくる。そう言われたって、まさかこの状況でジェネシスのヤツまで一緒にいるというのは考えてもいなかったのだ。

「ほら、昨日ヤズーが言っていたショップのお取り寄せ。ちょうど入荷してたから買ってきたんだ。チョコボっ子とは偶然そこで会って後ろに乗せてもらってきたんだよ」

「ったく、アンタはシツレーなんだよ。あんなに遠くから『チョコボ、チョコボ』ってよ!」

「でも、すぐに気付いただろう」

「ってゆーか、最初から気がついてたよ。アンタは無駄に目立つんだからな!」

 クラウドが鼻息も荒々しくそう言った。

「あまり誉めるなよ」

「全然誉めてねーよ!どーして、アンタは言葉が通じないんだ!」

 と、いつもどおりのやり取りをクラウドと繰り広げたあと、棒立ちになっているイロケムシに小洒落た洋菓子のケースを渡している。まったくジェネシスのやつときたら、どこまでも余念の無い野郎だ。

 

「あれ?セフィロス」

 急に声を掛けられて、心臓が飛び出しそうになる。

「な、なんだ!」

 と答える声が、震えていなければよいのだが。

「いや、何か今日はやわらかな雰囲気だね。ああ、服装がいつものモノトーンじゃないからかな。いいじゃないか、モスグリーンにアイボリーね。たまにはそういう色の服を着ろよ。似合っているんだから」

「え……あ、別に……気が向いただけだ」

「でも、長袖とはめずらしいね。今日はかなり暑いんじゃないかな」

 そう言いながら、ヴィンセントの淹れた茶をおいしそうに飲み干すのであった。クラウドのガキはさっさと冷蔵庫のあたりで、中を物色している。

 どうも、クラウドのガキよりも、ジェネシスのほうが鼻が利きそうだ。いや、むしろ、クラウドとジェネシスを並べてみれば、どちらが勘が働くかなど、わざわざ口にするまでもない。

 

 

 

 

 

 

(どうする、ジェネシスにも話しておく?)

 キッチンに戻る際に、こそこそと話掛けてきたのは、もちろんイロケムシであった。

(クソ……間の悪い)

(そう言ったって仕方がないでしょ。っていうか、ジェネシスの方はもう何か感じてそう……)

(クラウドの方はまったくわかってないようだがな)

「どうかしたのかい、何か内緒話?」

 耳ざといジェネシスがオレとイロケムシに不思議そうな顔を向ける。

「え、あ、ううん、そういうんじゃないんだけど」

「なんだか、セフィロスはいつもと雰囲気が違うし……もしかして、まずいときに来ちゃったかな」

「そ、そんなことないよ。このプリン、タイムセールでしか買えないし、楽しみにしていたんだ。きっとカダたちも喜ぶよ」

「そうかい……?それならいいんだけど。なぁ、セフィロス、どうしたんだ、めずらしくもだんまりだな。どこか具合でも悪いのか?」

 ……敏感すぎる男というのもやりにくい。どうしてこの男はこうも目端が利くのだろう。確かに、オレはいつもほどしゃべってはいないと思うが……別に無視したりしているわけでもないのだ。

「ねーねー、何の話。あ、プリン!俺、食べたい!」

 のそのそと台所から戻ってきたのはもちろんクラウドだった。お約束のようにバドワイザーの缶を片手にしている。

「に、兄さん、デザートは夕食のあとにだよ。カダたちも帰ってくるからね」

「えー、お腹空いたのに!」

 ひとしきり文句を垂れると、クラウドのほうもこちらを見て、へぇっというように目を丸くした。

「セフィがこの家で長袖着てるの、前の大雪のときだけだったのに」

「え、ああ、いや……」

「それにグリーンと白もけっこう似合うじゃん。ちくょー、俺ももうちょっと身長があったら、ゆったりしたサマーセーターとか似合うのに〜」

 と、別方向でむくれている。

 ……だが、夕食に合わせて、銀髪のガキどもも帰ってくる。

 そう考えれば、今この場で説明をしておかなければ、取り返しの付かないことになるかも知れない。イロケムシの言うように、ジェネシスのほうは何らかの違和感を感じている様子だし。

 意を決して俺は口を開いた。