セフィロス様の生涯で最悪な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

  

「おい、クラウド……それからジェネシス。ちょっと話がある」

 『話がある』などというと、おおげさに聞こえるかもしれないが、こういった話の切り出し方というものは本当に難しいものだと感じる。

 とりあえず、クラウドだけでなく、ジェネシスにも今の状況を伝えておこうというオレの真意はすぐにヴィンセントらに伝わった。

「セフィロス、あ、あとは任せておきたまえ」

「そうだね、話は俺たちがするから」

 と、あとを引き取ってくれる。

 オレもこの最悪の打ち明け話をするのは、ウンザリ気分だ。ふたりの促しに従って、黙ったままソファに掛けた。

 

「ええとね……その……ほら、ねぇ、ヴィンセント」

「あ、あのだな、き、極めて重大な問題が発生していてだな……」

 などとふたりとも要領を得ない。

「なんだい、どうしたというの女神?」

「なに、ヤズーもヴィンセントも顔赤くして」

 ジェネシスとクラウドも、さすがに察しが付かないのだろう。不思議そうに問い返すばかりだ。

 やはり他人任せというのは性分に合わない。ここはズバリ当事者のオレが事実を告げた方がよさそうに思えた。

 

「あ、あの、セフィロスに関わることなのだ」

「ふたりを信用して話すんだから、真剣に聞いてよね」

「ああ、もういいおまえら、とりあえず端で聞いているほうが疲れるんだとわかった」

 そう言って割って入り、ジェネシスたちに向き直った。

「……オレの身体に異変が起きた。今朝からなんだが……この肉体は今、『女』になっている」

「…………」

「…………」

 お約束のようにここでも沈黙が降りた。

「っつーか、何の冗談、セフィ?女になってるって……」

「そ、それが冗談ではないのだ、クラウド」

 ヴィンセントがしきりに額の汗を拭いながら言葉を重ねた。

 

 

 

 

 

 

「確かに……女神が俺にウソを吐くはずがないよね」

「え、あ、あの……と、とにかく、セフィロスの言っていることは事実で……その、私自身信じられなかったのだが、実際に確認したのだ。今、彼の身体は女性のものになっている」

「女体化!」

 と、俗っぽいセリフを吐いたのは、クラウドであった。思わずいつものように後頭部をぼこっとぶん殴ってやった。

「バカ野郎、気色の悪い物言いをするな」

「痛った〜!なにすんだよ」

「おまえが気色の悪い言葉を使うからだ」

「だって、そういうことなんでしょ!?また、不思議が起こったの?このパターンは初めてだね〜」

 驚きつつも順応性がよいのは、クラウド自身が何度もこの家で発生した摩訶不思議な出来事に巻き込まれているからだろう。

「『この家の不思議』というのは……?ああ、例の童話の世界に入ったりとかそういう類の話?」

 と、ジェネシスが訊ねる。

「まぁね、それもあるけど、他にも人格が入れ替わったりだのなんだのと、いろいろなことが起こっててさ。ここしばらく何もないと思ってたのに……」

 ため息混じりにイロケムシが言った。

「……で、セフィロスが、今、女性の身体……?」

「ってゆーか、信じらんない」

 ジェネシスとクラウドに、まじまじと見つめられるが、さらしで胸を隠した今はさきほどまでより大分精神的に気楽だ。

「まぁ、もう少し早く帰ってきてたなら、胸に触らせて納得させてやったところだがな。今は無理だ」

「どうして?っていうか、俺、まだ信じられないんだけど」

 とクラウドがいう。

「不快な胸部はさらしで締めてある。これで身動きが取りやすくなった」

「さすがに胸に触らせてもらうつもりはなかったよ。それじゃ、セフィロス、腕、見せてもらってもいい?」

 そう言ったのはジェネシスだった。

「腕?」

「そう、腕。別に胸なんて見なくてもわかると思うから」

 そう言われて素直に、セーターから腕を伸ばし、ジェネシスのヤツに見せつけてやった。

「うん、綺麗に筋肉のついた……でも、女性のしなやかな腕だね。どうやら、女性の身体になったというのは事実らしい」

「そう?セフィはもともと色白いからなぁ。確かにいつもよりほっそりしたような感じはするけど……でもなぁ、普段はノースリだけど、今日はサマーセーター着てるじゃん?だから雰囲気が違って見えるくらいにしか思えないよ」

「間違いないよ、チョコボっ子。おまけに女神とヤズーが真剣な表情でそういうんだ。ウソであるはずがない」

 そういうと、ふたたび場がシンと静まりかえった。